研究課題/領域番号 |
16J07523
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池内 寛明 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 河川洪水 / 河川氾濫モデル / 高潮災害 / メガデルタ |
研究実績の概要 |
本年度は主に、①全球河川氾濫モデルにおける氾濫域再現性の向上、②河口境界条件スキームのコード改良、③メガデルタ地域における河川洪水・高潮複合水害の再現実験の3点について研究を行った。 ①これまで用いてきた河川氾濫モデルCaMa-Floodにおいて、沿岸域で河道網が十分に表現できないという問題があった。これは、特にメガデルタ地域のような複雑な海岸地形を持つ河口域において、河川と海洋の境界の厳密な定義が困難であることに起因する。この問題を解決するため、モデル開発者と共同で沿岸域での河道網構築の改善作業に当たり、沿岸域での河道網の修正による氾濫域再現性の向上を確認した。 ②沿岸域における潮汐や高潮の影響評価を行うことを目的として、全球河川氾濫モデルへの海面水位変動過程の組み込みを行った。コード改良のためにモデルの全構造を把握するだけでなく、数値不安定を解消するための適切な時間ステップの設定などの工夫を行い、任意の時間ステップごとに沿岸水位データを読み込み河川流量計算に反映させられるモデルの構築に成功した。 ③上記で開発したモデルの応用として、2007年にガンジスデルタに来襲し、6 mを超えるような高潮が発生し甚大な被害をもたらしたサイクロンSidrの事例を対象として、高潮と河川洪水の複合水害シミュレーションを行った。全球潮汐・高潮モデルにより計算された本イベントでの沿岸水位データを河川氾濫モデルCaMa-Floodに与えた結合実験を行った結果、高潮モデルでは観測されたような異常水位が妥当に再現できていること、結合実験は非結合実験よりも水位の再現性が向上したこと、河口から200 km以上離れた地点においても3 m以上の浸水深の増加を示すなど、動的な海面水位変動が河川洪水に及ぼす影響を初めて明らかにした。 以上の結果を国内外の学会にて発表したとともに、論文を国際誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、河川洪水と沿岸洪水の双方が潜在的な水害リスクとして挙げられるメガデルタ地域を対象として、全球河川・海岸結合モデルの開発および複合水害シミュレーションの研究課題に取り組んだ。メガデルタ地域のような広域を対象として河川洪水と潮汐・高潮の伝搬を同時に解析する事例は本研究が世界で初めてであり、大きな社会的・科学的意義を有すると考えられる。 本研究成果については、共同研究先のオランダ側と緊密に連携を取って進めているのみならず、国内外での学会発表を通じて積極的に情報発信をしている。また本年度の成果をまとめた論文を国際誌へ投稿中である。以上より、本研究課題は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在国際誌へ投稿中の論文について、査読結果を踏まえた修正や追加の解析を行い、本年度中の論文の受理・出版を目指す。また共同研究先であるオランダへの渡航を実施し、双方が持つ解析技術やモデル開発技術を共有することで、更なる研究の進展およびその成果の国際的な発信を図っていく。具体的には、より妥当な河川・高潮モデル結合手法を議論・模索するとともに、洪水リスク評価手法の改良・構築という側面でも議論し研究成果を挙げることを目標とする。
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