本年度は、エルベ川およびメコン川を対象として、過去の文献の情報に基づいて仮想的な高潮シナリオデータを作成し感度実験を行った。また、全球モデルと領域2次元モデルの間で氾濫解析結果がどのように異なるのかという点を明らかにすべく、解析を行った。結果として、大規模な水文過程によって規定される河川流量については両者のモデルの間で概ね似た結果が得られたのに対し、浸水深については領域・全球モデルで大きく異なっていた。具体的には、浸水深の計算結果は高潮なし実験において過小である一方、高潮実験では過大であり、その差はおよそ1m程度だった。この原因について考察した結果、全球モデルにおいて高速計算を実現可能にする単位集水域の仮定が、浸水深の計算結果に対して及ぼす影響が大きいことが分かった。また高潮来襲時期と河川洪水ピークとを一致させた複合水害シナリオでの感度実験を行い、河川流路方向の水面標高分布を解析した。その結果、水面標高の絶対値は河川洪水時よりも非河川洪水時の方が大きかったものの、高潮による水面標高の増分については逆の結果となったことから、上流河川流量が大きい場合、高潮による水面標高の増加への影響が相対的に小さくなるということが示唆された。 さらに、メコン川を対象に同様の実験を行った結果、領域モデルでは高潮が河川のみならず陸域から直接侵入・遡上する過程が表現された一方で、全球モデルにおいてはそれが表現されていなかった。この原因としては、全球モデルにおいては高潮を河口に対応するグリッドにおける水位の上昇として与えているため、まず河道内での水位の上昇が生じ、それに続き陸域において浸水深が増加するというプロセスを取っており、陸域における高潮遡上が表現できないことが理由として考えられる。 以上の知見は、今後モデルを洪水リスク評価や洪水予測などへ応用・実装していく際に有用であり、意義のあることである。
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