申請研究では、マウス個体間の情動伝染をモデルとして、経験に依存した共感の調節機構の解明を目的としている。本研究ではまず、恐怖観察系において事前経験時とその後の共感時の神経活動について検討した。恐怖観察時には、観察マウスは自身が電気ショックを受けていないにも関わらず、恐怖反応である「すくみ反応」を表出する。このすくみ反応を示した度合いを共感の指標として定量した。本研究では、マウスに電気ショックを事前経験させた後に、仲間のマウスが同様の電気ショックを受けている様子を観察させた。その後、観察マウスから脳切片を作製し、生化学的手法により神経活動を検出したところ、事前経験時に活動した細胞は、恐怖観察時にも再び活性化しやすいことが明らかとなった。さらに、事前経験時と恐怖観察時に活動した細胞集団の重なりが大きいマウスほど、より高い共感行動を示すという関係性を見出した。以上の結果から、自己と他者の痛みの情報は部分的に共通の細胞集団により表象されており、その重なりが大きいほど、経験に依存した共感がより強く生じることが示唆された。続いて、共感時の神経活動を生きた動物から記録するため、in vivoカルシウム画像法の立ち上げに取り組んだ。本研究では、従来in vivoカルシウム画像法に用いられる二光子顕微鏡ではなく、より広い視野で多数の細胞の活動を捉えるため、共焦点マクロズーム顕微鏡を用いたカルシウム画像法の立ち上げを行った。その結果、麻酔下のマウス大脳皮質から神経細胞のカルシウム活動を捉えることに成功した。したがって、本システムにより、慢性的かつ大規模に単一細胞レベルで神経活動を記録することが可能となった。
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