固着して生活する生物が相互作用できる相手は基本的に近傍の個体に限られることから、固着性生物群集の動態は局所的な密度依存性によって駆動されると考えられる。そこで、研究代表者らが前年に提案した調査定点近傍の局所的な群集構造を推定できる階層モデルを拡張し、局所群集構造が推移確率に及ぼす影響を考慮した新しい群集動態モデルを定式化した。このモデルは生物多様性の統一中立理論の局所群集動態モデルに基づいており、固着性生物群集の時系列データに当てはめることによって加入制限の強さやデモグラフィの非中立性を明らかにすることができる。 予備的な解析として、このモデルを北海道東部太平洋沿岸の25サイトで得られた岩礁潮間帯固着性生物群集の長期データに当てはめた。その結果、死亡率に大きな種間変異(非中立性)が認められるとともに、一貫した加入制限が確認されたことから中立的な過程(人口統計学的確率性)の影響も示唆された。提案手法は、中立的機構と非中立的機構の相対的重要性の観点から固着性生物群集の生物多様性の維持機構を考察するために有用であると考えられる。 北海道東部沿岸・三陸沿岸の岩礁海岸で固着性生物群集のモニタリング調査を実施した。今後、本年度に構築した提案手法をこれらの地域で蓄積されているモニタリングデータに適用することで、岩礁潮間帯固着性生物群集動態の詳細を明らかにする予定である。
|