土地勘のない観光客を災害から守ることは喫緊の課題であるが、市民や行政職員だけで行われる防災活動には実践的な要素が不足している。一方、研究者が開発した避難シミュレーションは市民や行政職員だけで取り扱うことが難しい。そこで、行政職員や市民がシミュレーションを用いた避難計画策定手法に参加することで、より実践的な防災活動が行え、市民と研究者の協働を実現できるのではないかと考えた。 本年度は、①エージェントシミュレーションを用いた参加型計画策定手法の設計と②手法の効果を測定する実験を行なった。実験は、防災分野を専門とする大学生、大学院生32名を対象に実施し、まず(a)ブリーフィングにおいて、観光地が抱える問題、特に避難における課題を紹介する。次に、(b)被験者を4~5名の複数グループに分け、大地震の可能性が指摘されている架空の都市の行政職員になりきって架空の観光地の避難計画策定グループワークを実施する。(c)実験者がそれぞれのグループの避難計画の要素をエージェントシミュレーションに入力し、シミュレーション結果を得る。最後に、(d)各グループの避難計画の結果をグラフや数値を使って示しながら、実験者が解説を行う。実験にて行った調査の結果、本手法が地域防災活動に不可欠な正統的周辺参加の要件を満たしていることが明らかとなった。今後の課題として、実際に観光地を抱える市町村の行政職員や市民を対象に本手法の効果を測定することで、本手法の有用性をより明らかにする必要がある。
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