研究課題/領域番号 |
16J07774
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
留目 和輝 東京工業大学, 大学院理工学研究科(理学系), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 新粒子探索 / 2光子共鳴 / isolation / 信号純度 / ATLAS / LHC / 重いヒッグス |
研究実績の概要 |
物理解析では、重いヒッグス粒子の探索にあたり、より期待値の高い2光子共鳴の解析を行った。具体的には、より緊急度が高いisolationと呼ばれる変数の評価を行った。この変数は、信号事象と背景事象を識別するための変数だが、具体的にどのような値で選別するかはシミュレーションを用いた評価が必要となる。シミュレーションはデータを十分な精度で再現することが求められるが、前年度までに一部領域でそれらに違いが見られていた。私はこの問題を解消するため様々なチャンネルを対象としたデータとシミュレーションの比較検証を行い、原因を明らかにした。この検証を基にデータとシミュレーション間の違いは改善され、isolation変数を広い領域で使用することが可能となった。 isolation変数の検証をしたのちは、isolation分布を用いた信号純度の評価を行った。Isolationは信号事象と背景事象で分布の形状が大きく異なるので、信号事象の分布の形状と、背景事象の分布の形状を推定し、それらをデータのisolation分布に対して規格化することで、信号事象と背景事象の割合を推定した。本手法は初めて使用された手法ではなかったが、私が取り組む中で従来の手法には多くの問題点が含まれていることが明らかになった。そこで問題点を洗い出し、それぞれ解決することで、より理想的な手法が構築された。最終的にその新手法を用いて信号純度の評価を行い、不審な振る舞いないことが明らかになった。 物理解析と並行して、前年度に担当していた検出器の読み出しシステムのアップデートで生じていた問題点の解消に協力した。これまで読み出しシステムのワーキンググループで活動していた日本人は私だけだったが、当年度から後任の日本人学生が決まった為、これまで築き上げた関係の維持を図ると共に、後任への知識や技術の継承を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は4つのbクォークを終状態とするチャンネルを対象とした研究を予定していたが、2015年のLHCアトラス実験で2光子を終状態とするチャンネルが有力視され、緊急度が高くなったために、年度初めに対象とするチャンネルを変更することとなった。研究の進捗状況としては、2光子終状態チャンネルには多くの人手が集まることとなった為、順調な進展が見られ、既に夏までに論文一編をまとめることができた。その後も様々な検証が続けられ、現在当年度に取得した全データを用いた論文を執筆中である。特に年度後半に取り組んだ信号純度の評価では、従来手法でこれまで気づかれていなかった問題点を明らかにし解決することで、従来手法で過小評価してしまっていた信号純度をより正確に評価することを可能にした。 検出器読み出しシステムに関しては、引き継ぎ作業自体は順調に行うことができたものの、引き継ぎ後に判明した新たな問題が、開発時に情報共有が十分でなかった点から生じていたなど、開発当時の状況と現在生じている問題の両方を理解しなければ解決できない問題も発生し、後任者との密な議論が必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行われた研究から、2015年に2光子を終状態とするチャンネルで見られた新粒子の兆候は、統計的ふらつきが原因であることが有力となってきた。引き続き検証を行う必要は依然残されているが、それ以上により高い質量領域に探索感度を持つような解析手法の改善が必要である。特に私が担当していたisolationの信号選別基準について、様々な光子に対し同一の基準を課しているが、これを光子の通過した検出器中の位置、光子が電子対生成を行ったか否かなどに区分けし、それぞれで評価を行うことで、一般に信号事象に対する感度の向上が期待される。これを軸として信号感度の向上を目指し、より高い統計量のデータを用いた発見、もしくは棄却の議論を行う。 現在もミーティングはCERN現地で行われており、ミーティング中だけでなくその前後での議論が解析を発展させることがある。そのようなチャンスを生かすために、解析手法を完成させるまでは現地での研究を主として活動する。解析手法が完成されたのちは、日本に帰国し学位論文をまとめる。
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