研究課題/領域番号 |
16J07782
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
猪口 智広 東京大学, 大学院学際情報学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | フェミニズム / ハラウェイ / 人新世 / 動物倫理 / ケア / クトゥルー新世 / ポストヒューマン / 伴侶種 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、前年度に行った伴侶種論の動物論的側面についての研究成果を発展的にまとめるとともに、ハラウェイによるここ数年の「人新世(Anthropocene)」についての著述について新たに研究を行い、国内外の学会でその成果を発表した。 伴侶種論の動物論的側面については、メキシコで開催された国際学会Minding Animals 4th International Conferenceにて発表を行った。この発表では、動物倫理においてフェミニズムが果たしてきた役割を情動と擬人化の二側面から整理するとともに、人間と動物の非対称な双方向関係を強調する伴侶種論がいかなる意義を持つのか検討した。このほか、前年度の研究成果を複数の論文にまとめ公表した。 「人新世」をめぐる近年の議論とハラウェイの著述の関係についての分析は、本研究の当初の研究計画においては将来的な課題として部分的に言及するにとどめる予定であったが、2016年内にハラウェイが相次いで著作を出版し、また日本国内でも人新世概念についての議論の本格化に伴ってハラウェイの議論の位置づけがより重要となっていることから、本研究においてもより主要な課題として位置づけることとした。 具体的な作業としては、Staying the Trouble(2016)の分析を中心に行い、ハラウェイの「クトゥルー新世(Chthulucene)」概念の提起が、伴侶種論における「人間」「ポストヒューマン」概念への批判を引き継ぐものであることに着目しつつ、「堆肥(compost)」「腐葉土(humus)」といった形象をハラウェイが用いていることの意味を検討した。またこうした研究の成果を、表象文化論学会での口頭発表や、『文学と環境』第21号の特集「人新世」への投稿論文などにまとめた(後者に関しては査読待ちの状態である)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体の研究計画としては、「人新世」をめぐる近年の議論とハラウェイの著述の関係についての分析を、当初の計画よりも主要な課題として位置づけるよう変更を行ったが、その変更部分にあたる内容の研究が進展し、成果発表にまでつなげることができた。とりわけ、昨年に引き続き国際学会での発表を行うことができたことは大きな成果である。 しかしながら、この学会では当初ハラウェイ本人が基調講演者のひとりとして招聘されており、本人と直接意見交換を行うという研究の進展により大きく資する機会となりえたものの、ハラウェイが体調不良により参加を取り止めるという想定外の事態も生じた。また、海外までの旅費が研究費用の大きな割合を占めることで、文献や管理用機材の購入など他の使途に充てる金額を圧迫しているのも事実である。 昨年度に課題として示した論文執筆については、掲載・出版に至るなど一定の成果が出ている。しかしながら、査読のない研究雑誌からの寄稿依頼など、依頼を受けながらも進捗との兼ね合いから執筆が叶わなかったものもあり、当初の計画以上の進展があったとはいえない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では最終年度に国際学会での発表を予定していたが、学会発表については既に一定の成果を達成しているため、今後は研究成果を論文にまとめ公表することが第一の目標となる。とりわけ、博士学位論文の執筆は大きな作業となる。 研究内容としては、現時点で今後大きな変更を行う予定はない。具体的には、フェミニズム理論やクィア理論における主体をめぐる哲学的議論およびフェミニズムの認識論におけるハラウェイの議論の貢献を分析する作業や、現代の存在論哲学における新しい潮流とハラウェイの関係を明らかにする作業が残されている。
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