研究課題/領域番号 |
16J07784
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北村 遼 東京大学, 理学(系)研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
キーワード | ミューオン / 線形加速器 / ミューオン加速 |
研究実績の概要 |
ミューオン線形加速器の初段部であるRFQ(Radio-Frequency Quadrupole)を用いた世界初のミューオンRF加速実証試験に向けて、RFQへ入射する低速ミューオンビームの性質評価を進めた。金属薄膜標的により4 MeVからsub keVまで減速された低速ミューオンを静電加速収束器により20 keVまで加速したのち、輸送用ビームラインにより検出器まで輸送して測定を行った。検出器として新たに低速ミューオン専用ビームプロファイルモニタ(BPM)を導入し、低速ミューオンのビームプロファイル観測に初めて成功した。測定した低速ミューオンのビーム強度とビームプロファイルのデータに基づきシミュレーションを改良することで、RFQ試験における入射ミューオンビームの評価精度向上に繋げることが可能となる。 また加速試験でのビーム強度向上を目指して金属薄膜標的からの負ミューオニウム生成実験も並行して実施し、J-PARCにて初となる負ミューオニウムの観測にも成功した。 また、RFQ試験に向けて開発した金属薄膜型低速ミューオン源とJ-PARCリニアックのプロトタイプRFQを用いた場合のミューオン加速試験の粒子軌跡分布シミュレーションを構築した。RFQで加速されたミューオンは偏向電磁石とBPMからなる診断用ビームラインを用いて品質評価する。診断用ビームラインのシミュレーション結果より、輸送効率を向上させるために診断用ビームラインに収束用四重極電磁石を導入することにした。またビームのエミッタンス測定では検出器駆動装置の代わりにQマグネットの収束強さを変えながら、ビームプロファイルを測定するQスキャン法を採用することにした。Qスキャン法を用いた場合のシミュレーションを実施した結果、用意したQマグネットの最大出力磁場強度の範囲内でQスキャンが実施可能なことを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
J-PARC 物質生命科学実験施設(MLF)のミューオンHライン基幹部建設の遅延に伴い、基幹部後段に建設するミューオン線形加速器の工程も遅延している。そこで現在稼働中のミューオンDラインと本実験のRFQより小型なプロトタイプRFQを活用することで、ミューオン加速試験を遅滞なく実施する。RFQへ入射する低速ミューオン源開発、低速ミューオン用ビームモニタ開発及びRFQ試験のビーム光学系設計はいずれも順調に進んでいる。これまで独立に開発してきたビームモニタと低速ミューオン源評価のために構築したビームラインへ接続することで、低速ミューオンのビーム強度とプロファイルを同時に測定してビーム品質を評価できるようになった。BPMで減速により生成したkeV領域のミューオンビームプロファイルを実測できたことで、加速試験用低速ミューオン源開発とBPM開発は一定の成果を収めることができた。 さらに低速ミューオン源開発においては、平均エネルギーがより低く、加速に適したミューオン源として着目してきた金属薄膜からの負ミューオニウムの生成に成功し、ミューオン加速試験に向けて多角的なアプローチが可能となった。 RFQ試験に向けたシミュレーションでは本実験を行うHラインでのシミュレーションと、プロトタイプRFQのテストを行うDライン双方の場合に対して、粒子輸送シミュレーションを構築して、BPMでのビームプロファイル評価を行った。特にDラインでの実験では、実験エリアの空間的制約を加味した上で実現可能な光学系を構築し、なおかつエミッタンス測定に必要なQマグネット、偏向電磁石及びBPMを配置したシミュレーションを構築した。現在このシミュレーションに基づく実験セットアップを建設中であり、次年度中のRFQ試験に向けて準備を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
BPMで測定した低速ミューオンのビームプロファイル及びビーム強度のデータに基づきシミュレーションの改良を図り、RFQ試験でRFQへ入射する低速ミューオンビームの性質評価を行う。また低速ミューオンビームの評価においてもQスキャン法を導入し、実データによるエミッタンス測定を実施する。エミッタンスの実測データと改良したシミュレーションのクロスチェックにより、RFQ試験における入射ミューオンビームの評価精度向上に努める。 Dラインで実施するプロトタイプRFQを用いたミューオン加速試験により世界初のミューオンRF加速実証試験を行う。RFQ後段に設置する診断用ビームラインとBPMにより、Qスキャン法によるビームエミッタンス測定を実施する。RFQ で加速したミューオンビームのエミッタンス測定データと入射ミューオンビームの評価結果を組み合わせることで、ミューオンビームに対するRFQのエミッタンス増大の評価を行う。さらにBPMでのビーム強度測定結果から、RFQのミューオン加速効率も評価できる。RFQ試験で得られたビームエミッタンス増大やミューオン加速効率などのデータを元にして、g-2の測定に対してシミュレーションの外挿を行い、最終的なミューオンg-2の測定精度に対する評価を行う。 さらにRFQ試験ではBPMと合わせて、複数の崩壊陽電子カウンターをBPMの周囲に設置予定であり、陽電子の放出方向からRFQ加速後のミューオンビームの偏極度測定が実施する。ミューオン偏極度もg-2の測定精度に大きく寄与するため、偏極度の測定データとg-2測定精度の評価シミュレーションに加味する。 またビーム強度向上に向けた負ミューオニウムの生成実験も改良し、真空中へ多量のミューオニウムを放出することが知られているシリカエアロジェルを標的とした負ミューオニウムの収量増加に向けた実験を行う、
|