研究課題/領域番号 |
16J07835
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
巽 信彦 大阪工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 山形鋼ブレース / 接合形式 / 接合部偏心 / 接合部耐力 / 繰り返し変形性能 / ピンディテール接合部 / 回転剛性 / 曲げ耐力 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,体育館などに採用されることが多い構造形式である,引張ブレース構造の残存耐震性能評価方法を構築することである.平成28年度では,主に以下の2つについて検討した. 1. 山形鋼ブレースの接合形式が接合部耐力と繰り返し変形性能に及ぼす影響 山形鋼ブレースの接合形式が,降伏耐力を含む接合部耐力と部材としての繰り返し変形性能の両面に対して,どの程度の影響を及ぼすのかを定量的に把握するために構造実験を実施した.山形鋼を1本のみ用いた,1丁使いブレースの接合部における降伏耐力は,接合部ボルト本数にかかわらずほぼ一定であるのに対し,ガセットプレートの両面に山形鋼2本で接合した,2丁使い,Z形使いブレースの接合部における降伏耐力は,ボルト本数の増加に伴い大きくなる結果が得られた.また,有効断面破断耐力については,1丁,2丁,Z形使いの順に上昇する傾向がみられたが,1丁使いに対する比率としては最大で120%程度であった.一方,部材としての繰り返し変形性能については,2丁,Z形使いは1丁使いと比較して著しく低い結果となっており,1丁使いに対する比率はそれぞれ20%程度,30%程度であった. 2. 床スラブ付き梁端ピン接合部の力学挙動 床スラブを有する梁のウェブのみを高力ボルト摩擦接合した,床スラブ付き梁端ピン接合部を対象に構造実験を行い,その力学挙動を確認した.床スラブが曲げ圧縮側となる,正曲げを受ける場合,床スラブがない場合と比較して,非常に大きな回転剛性,曲げ耐力を示す結果が得られた.一方,床スラブが抵抗しない,負曲げを受ける場合は,床スラブがない場合と同様の挙動がみられた.正曲げ時における回転剛性や曲げ耐力の評価については現在検討中であり,次年度も継続する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では,1年目には1. 2丁使い山形鋼ブレースを対象とした構造実験と,2. 梁端ピン接合部の力学挙動についての検討,の2つを行う予定であった. 1. 2丁使い山形鋼ブレースを対象とした構造実験 当初は,引張ブレース構造に多用されている2丁使い山形鋼ブレースを対象として構造実験を行う予定であった.しかしながら,既往の研究において,2丁使い山形鋼ブレースの繰り返し変形性能が1丁使いと比較して著しく低いという結果が報告されていることを受け,より山形鋼ブレースの接合形式に着目した構造実験を行うことにした.すなわち,1丁使い,2丁使いの2つの接合形式だけでなく,Z形使いの山形鋼ブレースも検討の対象に加え,単調引張時と繰り返し変形時における力学挙動の把握に取り組んだ. 2. 梁端ピン接合部の力学挙動についての検討 当初は,引張ブレース構造の柱梁接合部に採用されることが多い,梁ウェブのみを高力ボルト摩擦接合としたピンディテールを有する接合部の力学挙動の把握を行う予定であった.一方,実大の引張ブレース架構の実験を行った既往の研究におけるデータ分析から,梁端ピン接合部のディテールの違いが引張ブレース架構全体の層せん断力に及ぼす影響は小さいことがわかった.そこで,引張ブレース構造の層せん断力に,大きく影響を及ぼすと考えられる,床スラブを付けた場合の梁端ピン接合部の力学挙動について検討を試みた.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は主に,山形鋼ブレースの接合形式が接合部耐力と繰り返し変形性能に及ぼす影響と,床スラブ付き梁端ピン接合部の力学挙動について検討を行った.以下に,残された検討課題を示す. 1. 山形鋼ブレースに必要とされる繰り返し変形性能の評価 平成28年度の検討では,山形鋼ブレース接合形式に着目し,接合部耐力と繰り返し変形性能を実験的に把握した.実験結果から,接合形式を接合部偏心が解消できる2丁使い,Z形使いとした場合,1丁使いと比較して,接合部耐力は最大でも120%ほどしか上昇しないが,繰り返し変形性能は20%程度,30%程度にまで低下することがわかった.一方,山形鋼ブレースを1丁使いとして使用した実大引張ブレース架構の実験では,1丁使いとしたことによる接合部偏心の影響で柱のねじれが確認されており,架構全体としてみた場合には1丁使いを採用することが必ずしも適切ではないと言える.これらのことから,2丁使いやZ形使いとしたブレースに,どの程度の繰り返し変形性能が必要であるかを評価することが重要であり,この点については本研究における検討の余地がある. 2. 床スラブ付き梁端ピン接合部における回転剛性と曲げ耐力の評価 平成28年度は,梁上に床スラブが取り付いた梁端ピン接合部の構造実験を実施し,得られた実験結果から考察を行った.しかしながら,正曲げ時における回転剛性や曲げ耐力の評価方法は構築できておらず,現在検討中の課題である.任意の梁端ピンディテールにおける回転剛性と曲げ耐力の評価方法を構築した後は,床スラブ付き梁端ピン接合部の履歴挙動を模した簡易的な履歴モデルを用いて,過去に実施した床スラブ付き実大引張ブレース架構の実験で得られた架構全体の履歴挙動を再現するための数値解析を行い,回転剛性や曲げ耐力に対する評価方法の妥当性を検討する.
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