研究課題/領域番号 |
16J07839
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
秋山 肇 国際基督教大学, アーツ・サイエンス研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 国際法 / 無国籍 / 国籍 / 日本 / 国内法 |
研究実績の概要 |
研究初年度である本年度は、次年度以降の実体的な研究のための基礎的な調査を主に行った。第一に、研究全体における理論的枠組みの確立に励み、国際構造が「社会(society)」を構成していると理解し、国家は統一的な政府を有しないにもかかわらず、価値観や利益を共有していると主張する英国学派における研究の蓄積を渉猟した。第二に、本課題で必要な一次資料の収集を国立公文書館、ジュネーブの国連図書館等で行った。一次資料を元にして、無国籍ネットワークトークイベントお飛び日本平和学会において報告を行った。第三に、無国籍者の定義について研究を行った。国際法における無国籍者の定義は明らかであるものの、その解釈については十分に研究されているとは言えない。そこで未登録者の視点から無国籍者の定義の解釈を試み、世界法若手研究会で報告を行い、のちに学会誌『環境創造』で発表した。第四に、無国籍の予防を実務の面で国際的に牽引している国連難民高等弁務官事務所本部(スイス・ジュネーブ)でインタビューを行い、国際的な無国籍の予防の流れを学んだ。また、積極的に取り組んでいる各国の代表部にインタビューを行うことで、無国籍の予防が国連だけでなく各国にとっても重要な課題であることが明らかになった。第五に、代理出産と無国籍の関連性について研究を行った。無国籍の予防を実現するためには伝統的な無国籍の問題だけでなく、新たな無国籍の原因となりうる代理出産の問題も重要である。そのため、代理出産における無国籍の状況と、国際法における枠組みについて研究を行った。なお、スイス連邦工科大学チューリッヒ校および日本学術振興会による日本-スイス若手研究者交流事業(特別研究員)に採用され、2016年10月から2017年3月の間、ローザンヌ大学に滞在し、ローザンヌ大学のベロニク・ボワイエ(Véronique Boillet)助教と共同研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で必要となる基本的な理論の理解や一次資料の収集が進んだだけでなく、無国籍者の定義に関する論文を公刊し、また従来では注目を集めてこなかった代理出産と無国籍の関連性を研究することで、新たな無国籍の予防の課題が明らかになった。これは国際法学だけでなく、学際的に無国籍の予防をアプローチする本研究において重要な点であり、本研究を遂行するために極めて有益であった。本年度は、これまであまり学んでこなかった英国学派のアプローチを学ぶことで、本研究における理論的枠組みとすることにした。これは研究計画時には想定していなかったことであり、この理論を導入することで本研究の含意を学際的に認識することができる。また、未登録者という視点から無国籍者の定義を捉え直すことで、国家と国民のつながりについて検討することができた。これも本研究の含意を検討する際に重要である。さらに代理出産と無国籍の関連性を検討したことで、日本も採用している血統主義における「親」の定義を検討する重要性を認識した。これは本研究を遂行する際の基盤となる点で、新たな視点を提供している。このように、計画時と異なる視点から無国籍をアプローチすることで、学際的な視野から無国籍を検討することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は実証的に国際法における無国籍の予防が日本の国内法に与えた影響を分析していく。今年度は理論的な枠組みの策定や様々な視点から無国籍を検討したが、今後は一次資料をさらに収集しつつ、無国籍の予防について実証的に国際法と日本の国内法の関連を検討していく。まずは関連する国内法、主に1899年国籍法、1950年国籍法、1984年国籍法と無国籍の予防の接点を探る。これをもとに、それらの審議過程においていかなる議論がなされたのかを分析する。また、国際法の文脈において無国籍の予防と国内法の関連性がいかに認識されたかも含めて分析を行う。次年度中に国際法と国内法の関連性を分析し、これらは積極的に学会において報告し、論文として発表するつもりである。再来年度にその含意をまとめる予定である。
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