研究課題
1)現代の高塩環境の研究:平成28年度は、シチリア島トラパニの塩田で採取した海水・ブラインおよび堆積物試料に対して各種化学分析を行った。海水・ブライン中の溶存無機炭素および堆積物中の色素化合物(クロロフィルa、β-カロテン)の炭素同位体比を測定した結果、塩分が高くなるにつれて一次生産が抑制されることが明らかになった。また、塩田の炭酸系が低塩分では光合成や有機物の分解など生物プロセスの影響を強く受けているのに対し、高塩分では二酸化炭素の脱ガスの影響が支配的であることも明らかになった。これらの結果をまとめた論文が、国際誌Geochimica et Cosmochimica Actaに受理された。一方、硝酸・アンモニア・色素化合物の窒素同位体比の結果から、微生物マットの主要一次生産者である藻類・シアノバクテリアがアンモニアを窒素源としていることが明らかになった。窒素は一次生産を制限し得る必須栄養塩であるが、塩田微生物マットでは、有機物が分解し生成したアンモニアが光合成生物に再利用されることで高一次生産が維持されていることが示唆された。これらの結果は、現代の高塩環境の生物地球化学循環の知見を深めると共に、過去の大規模高塩化イベントを理解するための基礎的な知見を与える。2)地中海塩分危機の研究:平成28年度は、イタリア北部アペニン山脈で採取された地中海塩分危機ステージ1の石膏層と黒色頁岩層の分析を行った。黒色頁岩層から単離・生成した光合成生物を起源とするポルフィリン化合物の窒素同位体比は-5‰前後の値を示しており、当時の一次生産者が窒素固定を活発に行っていたことが明らかになった。これは一次生産が窒素制限を受けていたことを意味しており、窒素と比べてリンや鉄などの生物必須元素に富む陸水の供給があったことを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、現代の高塩環境(塩田)における高塩化に伴う炭酸系の挙動の変化および生物活動の変遷を明らかにし、国際誌Geochimica et Cosmochimica Actaに発表することができた。また、塩田バイオマットの窒素循環に関するデータも揃っており、論文にまとめる段階まできている。地中海塩分危機時に堆積したイタリア北アペニン山脈の堆積物中から単離・生成した色素化合物の炭素・窒素同位体比の測定にも成功している。
現代の高塩環境の研究に関しては、窒素循環に関するデータを国際誌に投稿する。地中海塩分危機の研究に関しては、炭素・窒素同位体比の測定に成功した色素化合物(ポルフィリン)の構造決定を行い、当時の光合成生物を特定する。さらに、地中海塩分危機時にスペインソルバス地方およびイタリアシチリア島で堆積した堆積物についても同様の分析を行い、様々なセッティングにおける塩分危機の進行に伴う光合成生物と炭素・窒素循環の応答を明らかにする。
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Geochimica et Cosmochimica Acta
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10.1016/j.gca.2017.04.013