研究課題/領域番号 |
16J07881
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
飯浜 賢志 国立研究開発法人産業技術総合研究所, スピントロニクス研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 異常ホール効果 / スピン軌道トルク / 強磁性共鳴 |
研究実績の概要 |
本研究の目的として、垂直磁化膜の磁化をスピン軌道トルクによるゼロ磁場での反転、またはその垂直磁化膜のダンピングの変調を目的とした。スピン軌道トルクを用いた垂直磁化膜のゼロ磁場反転やダンピング変調は3端子MRAMや垂直磁化膜のスピン波を用いたデバイスの実現に向け、必須課題であると考えられる。従来よく研究されてきた重元素のスピンホール効果ではゼロ磁場における反転が不可能であることがわかっており、それはスピンホール効果で生成されるスピン流のスピンの向きが制御できないからである。そこで、我々は強磁性体で発現することで知られている異常ホール効果に着目した。異常ホール効果を用いることでスピン流のスピンの向きを強磁性体の磁化の向きで制御可能になることが期待されるが未だその報告はない。 我々は強磁性体1(CoFeB)/非磁性体/強磁性体2(NiFe)の三層構造における強磁性共鳴測定を行った。バイアス電流を印加することで強磁性体1の異常ホール効果を誘起し、異常ホール効果によって生成されたスピン流が強磁性体2のダンピングを変調することが予期される。強磁性共鳴スペクトルのバイアス電流依存性の測定を試みた結果、強磁性体2のダンピングを反映するスペクトルの線幅がバイアス電流によって変調されていることを観測した。この結果は異常ホール効果によってスピン軌道トルクを生成できることを示す初の観測であり、この結果を今後学術雑誌に投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
最初に行った試料構造では強磁性体にあまり電流が流れない構造であり、異常ホール効果によるスピン軌道トルクは観測できなかった。しかし、試料構造を改善し、異なる強磁性体を積層した、強磁性体1/非磁性体/強磁性体2の三層構造の強磁性共鳴測定を行うことで、異常ホール効果を用いたスピン軌道トルクを観測することができたからである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において強磁性体(CoFeB)のスピン流の生成効率が評価できたため、今後は積層構造を改良することで、スピン軌道トルクの増大を目指す。また垂直磁化/面内磁化の交換結合した積層膜を用いることで、垂直方向の成分のスピンをもったスピン流の生成を試みる。
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