本研究は、20世紀フランスの芸術家ジャン・デュビュッフェの芸術理念と造形実践を、同時代パリにおける芸術・文化・思想をめぐるダイナミズムのなかで明らかにするものである。デュビュッフェが本格的な画家活動を開始した1940年代、もっとも精力的に制作をおこなった1950年代の造形作品(絵画、リトグラフ、デッサン)および記述(書簡、芸術論考、アトリエ帖等)を考察の中心対象としつつ、これらをデュビュッフェがパリに出た1918年からパリ装飾美術館にて大回顧展が開催された1960年までのフランスにおける美術、文学、哲学をめぐる多様な状況のなかで再検討している。 第二年度である本年度前半には、たとえばデュビュッフェ造形作品およびその記述においてとりわけ強調される絵画の物質性の問題をガストン・バシュラールの「物質的想像力」との比較検討し、両者の親縁性を再確認すると同時に、これまで検討されてこなかった相違点を指摘した。 本年度もスイス・ジュネーヴ大学を拠点とし、本研究の基盤となる造形作品・文献資料を基本とした考察を進めると同時に、フランス、スイス、日本にて学会および研究会等に参加して他の研究者らとの議論の機会を持っている。また年間を通して造形作品、および先行研究文献を含めた資料調査を行い、フランス(国立図書館、国立美術史学研究所(INHA)他)、イギリス(コートルード美術研究所他)、オランダ(アムステルダム市立美術館他)、ドイツ(ベルリン・シャルフ・ゲルステンベルク・コレクション他)等に赴いた。 今後は一次資料の再検討と二次資料の精読を行い、博士論文作成に取りかかる予定である。
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