研究実績の概要 |
報告者は、軟骨魚類には珍しい広塩性種のオオメジロザメを用いて、飼育実験をベースとした生理学的研究(仕組みの解明)と、浦内川でのフィールドワークによる生態学的研究を並行して進めてきた。 1) 生理学的解析 昨年度に引き続き、美ら海水族館との共同研究にて行われた飼育実験個体のトランスクリプトーム解析をもとに、オオメジロザメの海水飼育個体と淡水飼育個体の間で腎臓において発現が変化する遺伝子群の解析を進めた。平成30年度は、前年度に海水個体の腎臓の遠位尿細管後部(LDT)で発現し、淡水個体で減少することを見出していたホウ酸輸送体(slc4a11)に注目し、その輸送活性を電気生理学的手法を用いて調べた。その結果、オオメジロザメのslc4a11は強いホウ酸輸送活性を持つことが明らかになり、オオメジロザメの腎臓のLDTが海水環境ではホウ酸塩の排出セグメントとして機能していることが強く示唆された。淡水環境への移行にともない、LDTはホウ酸などの排出活性を低下させるとともにNaClの再吸収活性を上昇させることが明らかになり、オオメジロザメの広塩性にとって鍵となる分節であることが明らかとなった。 2) 行動生態解析 2014年から2017年の調査から、西表島の浦内川では6月ごろに出生直後のオオメジロザメ幼魚が多数河川に加入することを見出した。そこで本年度も、昨年度に引き続き新規加入個体が多数捕獲できる可能性の高い6月に調査を行った。その結果、本年度のオオメジロザメ幼魚は8尾捕獲された。河川環境をこれまで4年間と比較したところ、2018年は特に2017年と同様に水温と塩分が以前の年に比べて低いことがわかった。オオメジロザメは隔年出産することが報告されていることから(Compagno, 1984)、浦内川のオオメジロザメの捕獲数は母サメの出産周期など河川環境以外の影響も受けていると考えている。
|