研究課題/領域番号 |
16J07902
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
重宗 宏毅 早稲田大学, 創造理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ペーパーメカトロニクス / プリンテッドロボット / プリンテッドエレクトロニクス / ぺーパーエレクトニクス / 印刷法 |
研究実績の概要 |
本研究では,印刷法を用いた簡便に多様なロボットを作製する系統だった設計・製作法の開発を目的として研究を進めている.これまで,印刷法を用いた構造と配線の形成法の開発を行ってきた.構造と配線それぞれを作製するために別の紙を使用し,積層することで統合していた.紙を積層すると,基板が厚くなり固くなることで,形成される立体構造が制限される.海外の研究グループも,形状記憶高分子やプラスチックシートを重ね合わせることで,自動立体構造形成をする技術を開発している.その研究においても,重ね合わせる手間やそれによって生まれる誤差について言及されていた.そこで本年は,1枚の紙の上に同時に構造と配線を形成する手法の開発の目途が立ったため,優先順位を上げて重点的に研究に取り組んだ.最終的には,開発した立体基板に適した静電アクチュエータの原理を探索し,駆動に成功した. 具体的には,1枚の紙に印刷することで構造と配線を構成する手法を開発した.銀ナノ粒子インクが描画されたパターンが配線となり,構造形成用インクが描画された線に沿って紙が自発的に折れ曲がることによって構造が形成される.これらのインクは,1つの家庭用インクジェットプリンタのカートリッジに充填されているため,小規模な装置で初期投資を少なく開発することができる.銀が印刷された部分も構造形成し,構造形成後も銀の導電性が確保されることも確認されている. また,印刷ロボットの駆動原理として,電気流体現象(ElectroHydroDynamics)にも着目している.EHDは,印可した電圧に従って流体が移動する現象を指す.応用として,自律遊泳する小型電極や吸着デバイスの開発を行っている.発生力の小さい静電アクチュエータの中でも体積力を発生することのできるEHD現象は,軽量という特徴を持つペーパーメカトロニクスの応用性を拡充する駆動原理として期待している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1枚の紙面上に構造と配線を同時に印刷することは,困難であると考えられていたが,今年度で達成することができた.構造形成に用いている紙の表面は凹凸が多いことが特徴である.凹凸の多い表面に粒子径の小さい銀ナノ粒子を印刷しても,粒子同士が乖離してしまい,通電が確保することができなくなる.しかし,熱処理を行うことでそれを解消することができることに気が付き,実験を繰り返すことで,通電を行う目的により良い抵抗値が下がる条件を確認することができ,開発に成功した. また,ロボットの駆動に関しては,応答性の良い静電アクチュエータの原理を探索し,駆動に成功した.従来は,電気熱アクチュエータを利用していたが,熱拡散に由来する応答性の遅さが欠点として挙げられていた.Zipper, 折り畳み, リニア, EHDなど様々な種類の静電アクチュエータを調査・実験し,最終的に静電接着の原理を用いた駆動に適した構造の発見に至った.開発されたロボットは15sで56mmの距離を駆動した.これは,機体サイズの7.38倍を1分間で移動する計算となり,従来の同様なサイズの静電ロボットに対して約6.5倍の速度を生成することに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度は,インクジェット印刷を用いた立体配線基板の作製に成功した.これをペーパーメカトロニクスの基盤技術として,この基板上にさらなるロボット要素の印刷することを目指して研究していきたい.今後の方針として,まず開発した配線基板の更なる特性向上を考察していきたい.現在も,銀ナノ粒子インクを用いてある程度抵抗値を下げることはできているが,既存の銅配線基板と比べると高い.配線幅を太く厚くすることで抵抗を下げることは可能であるが,配線パターンの設計に制限を加えなければならない.より詳細なパラメータ探索を行うことで配線基板としての性能を上げていきたい. また,印刷ロボットを作成するために,制御部の開発が必要となる.従来の電源からは直流電流しか得ることができないため,ロボットの駆動を取り出すことは難しい.そこでアクチュエータと制御部の機能を合わせ持った,自励振動アクチュエータの開発に着手している.具体的には,流体から体積力を受けることのできるEHD現象を用いた自励振動デバイスの開発を行っている. 他にも,複数のプロジェクトを同時並行で進めており,研究を遂行する上で問題点があった場合は,他機関(芝浦工業大学・Scuola Superiore Sant'Anna)と連携を取りながら,革新的な技術の開発を目指して研究に取り組んでいく.
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