最終年度である本年度は、これまでに行なってきたモデル不確実性の下での金融政策の分析と非伝統的金融政策の実証分析をさらに推し進め、その成果を博士論文および投稿論文としてまとめた。 モデル不確実性の下での金融政策については、金融政策の波及メカニズムについて中央銀行が不確実性に直面している状況を考え、そのような不確実性の下で行われる最適金融政策を理論的に分析した。この研究の特徴は、中央銀行がモデルについて不確実性を抱えつつ、同時に名目短期金利が将来的に下限に到達する可能性をも明示的に考慮し政策を実行しなければならない、というより現実的な状況をモデル化しているところにある。分析の結果、モデル不確実性が存在するときに実行されるゼロ金利政策の長さがその不確実性の種類・大きさによって変化することが明らかになった。 非伝統的金融政策の実証分析については、2013年4月に日本で導入された量的質的金融緩和(QQE)の導入による日本の経済主体の長期インフレ期待の変化を分析した。この研究では、日本で毎月行われている経済予測を集めた“ESPフォーキャスト調査”のパネルデータを使用し、長期の期待インフレ率の推定を行った。結果として、“ESPフォーキャスト調査”参加者の期待インフレ率はQQE導入前で0.4%程度であり、導入後には平均で1.2%程度に上昇したことが判明した。また、QQE導入以降はその期待インフレ率が1%付近にアンカーされており、導入直後には大きく上昇したものの近年また低下し始めていることも明らかになった。また、近年では期待フィリップス曲線の傾きが急になっており、期待GDP成長率の上昇がインフレ期待を押し上げる要因になっていることが明らかになった。これらの結果はJournal of the Japanese and International Economiesに既に公刊されている。
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