研究課題/領域番号 |
16J07912
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 侑 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 高分子 / 半導体 / ドーピング / キャリア伝導 / イオン交換 |
研究実績の概要 |
高分子半導体は塗布により製膜可能な次世代のエレクトロニクス材料として注目されており、主鎖における移動度は理論計算では100 cm2/Vsを越えることが予想されている。しかし材料としての高いポテンシャルは実際のデバイスでは実現されず、キャリアが局在化したホッピング伝導による低い移動度が報告されてきた。過去の私の研究では高移動度ポリマー半導体を配向化したデバイスによってバンド伝導性を初めて実証した。また、近年にキャリアドーピングを十分に行った状態ではコヒーレントな伝導が観測されることが報告されており、基礎研究および熱電変換素子への応用研究の側面から注目を集めている。 こうした中でにp型高分子半導体の化学ドーピングにおいて、構造乱れを抑えながら従来より2-3倍程度高い、モノマーユニット1つにつき~1個のホールが注入できる手法を開発した(アニオン交換ドーピング)。この手法よってドープ量が向上されるメカニズムに、アニオン交換におけるイオン間の親和性が大きく関与していることを解明した。実現された構造秩序と高いドープ量を有する高分子半導体の伝導を評価したところ、ホール効果、アンダーソン局在に由来する磁気抵抗効果からコヒーレントなキャリアの存在が示された。また、局在長は低温において、塗布による高分子半導体としては非常に大きい20 nmを超える値に達した。 高分子半導体の電子状態は構造秩序とドープ量だけでなく、格納されているイオン種にも依存することが報告されている。開発したアニオン交換ドーピングによって多様な種類のアニオンを高分子半導体に格納することに成功し、適切なアニオン種の選択によって熱電変換素子において重要な熱耐久性を大きく向上できることを発見した。この手法は高分子半導体ドープ膜におけるさらなる伝導特性向上や機能性付与に活用できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来は難しいと考えられてきた、高分子半導体の構造秩序を保った状態におけるモノマーユニット1つにつき~1個程度という非常に大きな密度ホールを化学ドーピングによって注入する事に成功している。これは従来に化学ドーピングによって報告されている2-3倍程度の値である。 このような新しいドープ手法の開発、およびメカニズムの理解を進めたことによって、ドープ量に依存したキャリアの非局在状態の物性評価などを行うことができている。 さらに、配向膜を用いたドープ膜における異方性に関する検討にも着手できており、従来の伝導度の報告値を大きく上回る系における伝導物性評価に取り組むことができている。 これらはバンド伝導性高分子半導体の伝導理解に大きく貢献するものであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発したアニオン交換ドーピングにおいて多様なアニオン種を検討することで、キャリアの局在長の増大や機能性の付与を実現できることが期待できる。これに対して、アニオン分子の化学的剛性・分極率・官能基といった化学的側面に対する考察と、構造評価およびホール効果、磁気抵抗効果、電子スピン共鳴、ポーラロン吸収などによるキャリアの非局在性の評価といった物性測定によるアプローチを組み合わせて取り組む。これまでに開発してきた高分子半導体の高配向化手法を組み合わせれば、高分子において重要な異方的特性に関する知見も得られると考えられる。 ドープされたp型高分子半導体の伝導度として100-1000 S/cmの値が多く報告される一方で、n型高分子半導体の伝導度の値は-1 S/cm程度である。これにはp型高分子半導体においてもみられるミクロ・マクロな構造乱れに加えて水や大気に由来するトラップ準位および化学的不安定性による影響も寄与している。p型半導体において開発してきた手法およびドーピングの耐久性向上に関する知見を活用することで、n型高分子半導体においてもドーピングの大気安定性および伝導特性向上が可能であると考えられる。これについて、n型ドーピングの知見を有するグループと共同して取り組みながら、キャリアの非局在性について検証を行う。 高分子半導体の応用展開として重要な位置を占める熱電変換素子については、上記のドーピング手法による高い伝導度に加え、低い熱伝導度および高いゼーベック係数が重要となり、無機材料と比較すると熱伝導度が小さいことが高分子半導体を用いる利点である。さらに、他の材料と比較して容易である構造制御を活用することでさらに熱伝導度を低下できる可能性が示唆されている。化学ドーピングと構造制御の手法を組み合わせ、実用化を見据えた素子の作製に取り組む。
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