本研究の目的は,e-learningをはじめとするコンピュータ利用学習 (Computer-based learning)において,ドロップアウトする学習者が多いという持続性の問題の解決に寄与することであった。 この目的を達成するために,本年度は次の3つの研究を行った。(1) 課題の解決方略を教示するタイミングが自己効力感と後の課題の取り組み時間に及ぼす影響の検討,(2) 報酬の獲得を無意識に予期することによるアンダーマイニング効果の検討,(3) 自己調整学習方略の実践経験と社会的スキルとの関連の検討 その結果,それぞれの研究において次のことが明らかになった。(1) 課題の解決方略の教示は,課題に取り組む前よりも,課題の失敗や諦めを経験した後のタイミングで行う方が,学習者の自己効力感や後の課題の取り組み時間に好影響を及ぼす。(2) 課題成績に応じた金銭報酬を与えると,その課題に対する内発的動機づけが低下するというアンダーマイニング効果は,金銭報酬の獲得を無意識に予期するだけでも生じる可能性がある。(3) 大学での学習において,自己調整学習方略を使用した経験がある人ほど,自己制御やコミュケーション能力などの社会的スキルが高い傾向にある。 これらの成果は,持続的な学習をサポートする方法や,持続的な学習に重要な内発的動機づけが低下するメカニズム,学習者が自律的な学習方略を身につけることの重要性に関する新たな知見を提供するものであり,コンピュータ利用学習における持続性や動機づけの向上に対して一定の示唆を与えるものである。 要因を統制した状況下で得られた本研究成果の知見を踏まえて,今後はより実際のコンピュータ利用学習に近い状況下でさらなる検討を行い,持続的に取り組むことのできる学習システムを開発するための指針を得ることが求められる。
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