研究課題/領域番号 |
16J07985
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
大橋 りえ 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | mRNA輸送 / 局所的翻訳 / RNG105 / Arf GEF, GAP / スパイン |
研究実績の概要 |
神経樹状突起へのmRNA輸送および局所的翻訳は、シナプス強化に重要であることが示唆されており、この分子機構の解明は記憶形成の理解進展において重要な課題である。本研究では、樹状突起へのmRNA輸送と長期記憶に不可欠であるRNG105に着目し、RNG105欠損マウス海馬樹状突起層で局在が有意に低下するArf GEF, GAP mRNA群(ターゲットmRNAs)に注目している。 1. 神経初代培養細胞におけるMS2システムによるmRNA局在可視化の定量法として、ノイズ許容値を5段階に振り、その中央値を算出してシグナルを抽出する方法を確立した。定量解析の結果、Arf GEF mRNAsはKCl刺激非依存的に、Arf GAP mRNAsはKCl刺激依存的に樹状突起へ局在化した。RNG105 を欠損させるとターゲットmRNAsの樹状突起内局在が有意に低下した。 2. 計画していた輸送責任cis配列同定に先行して、ターゲットmRNAのノックダウンがスパイン形成・AMPA受容体細胞表面局在に与える影響を解析し、今後着目するmRNAを絞り込んだ。神経初代培養細胞にshRNAベクターを導入することによりノックダウンを行なった結果、特定のArf6 GEF/GAPがスパイン形成に重要であることが示唆された。 3. ターゲットmRNA翻訳産物の局在を、GFPとの融合タンパク質を発現させることにより解析した。その結果、特定のArf6 GEFは細胞膜上に局在し、特定のArf6 GAPは細胞内に顆粒状に分布する等、特徴的な局在を示した。 以上の結果から、Arf GEF/GAP はその種類によって樹状突起へのmRNA輸送条件が異なり、一部のArf6 GEF/GAPは細胞内で特徴的な局在を示し、スパイン形成に重要な役割を果たすことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MS2システムによるmRNA局在可視化について、定量方法を確立し、データの定量解析を行なった。その結果、Arf GEF mRNAsとArf GAP mRNAsとでは樹状突起へ輸送されるタイミングが異なる可能性が示唆され、これは局所的翻訳の新たな制御機構解明につながる可能性を有している。また、RNG105欠損ニューロンの樹状突起ではこれらmRNA群の局在が有意に低下することを示した。MS2システムは客観的かつ再現性よくシグナルを抽出することが難しいが、定量法確立により信頼性の高い解析法として今後用いることが可能になった。 当初の計画では、ターゲットmRNAの樹状突起への輸送責任cis配列を同定する予定であったが、この解析に先立ち、ターゲットmRNAのノックダウン実験を行なった。その理由は、ノックダウンによりシナプス強化(スパイン形成・AMPA受容体の細胞膜表面局在)への影響を解析し、今後着目するmRNAを絞り込むためである。神経初代培養細胞におけるノックダウン実験により、特定のArf6 GEF/GAPがスパイン形成に重要であることが示唆され、着目するmRNAを絞り込むことができた。 更に、ターゲットmRNA翻訳産物の神経細胞内局在を解析した。その結果、特定のArf6 GEF/GAPがそれぞれ特徴的な局在を示した。局在解析は当初の計画にはなかったが、今後、局所的翻訳産物がシナプス強化に与える影響を解析するにあたり、有用なデータとなることが期待される。 以上より、研究計画からは変更があったものの、Arf GEF/GAPの局所的翻訳がシナプス強化に与える影響の解析を遂行するにあたり、重要な結果を得ることができた。また、ターゲットmRNAを絞り込むことができたため、今後、効率よく研究が進展すると期待される。よって、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Arf6 GEF/GAPによるスパイン形成等のシナプス強化が、これらmRNAの樹状突起への輸送及び局所的翻訳によるものであるかを解明する。具体的には、1.着目したターゲットmRNAsの樹状突起への輸送責任cis配列 (DTRS) を決定し、2.DTRSを欠損させた場合のスパイン形成・AMPA受容体細胞表面提示への影響、3. 記憶形成への影響を解析する。 1. ターゲットmRNAsの様々な領域の欠失変異体を、神経初代培養細胞に導入する。MS2システムによるmRNA局在・輸送解析によりDTRSを決定する。また、DTRS欠損マウスを作製する。 2. 神経初代培養細胞において内在性のターゲットmRNAをshRNAによりノックダウンする。同時に、shRNA耐性型のターゲットmRNA全長またはDTRSを欠いた配列を導入する。前者は導入したmRNAが樹状突起へ輸送され、後者は輸送されないことが予想される。よって、両者でシナプス強化に与える影響を比較解析する。まず、GFPの共導入により細胞形態をトレースしてスパイン形成を解析する。また、pH感受性GFPフルオリン-AMPA受容体を導入してAMPA受容体の細胞表面提示を解析する。mRNA輸送の有無による差を、樹状突起全体の解析により検出するのが困難な場合は、2光子励起ケイジドグルタミン酸法による単一スパイン刺激後のスパイン・AMPA受容体への影響を解析する。 3. DTRS欠損マウスの学習・記憶への影響を解析する。 以上により、ターゲットmRNAの樹状突起への輸送がシナプス強化・記憶形成に与える影響を明らかにする。
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