研究課題/領域番号 |
16J08005
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
中能 祥太 基礎生物学研究所, 初期発生研究部門, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | Erk / Stat3 / 細胞周期制御因子 / マウス初期胚 / 自動検出アルゴリズム |
研究実績の概要 |
本研究は、Erkシグナル・Stat3シグナル・細胞周期制御因子の3つの要素に注目して哺乳類初期胚の多能性と分化を制御する仕組みを明らかにすることを目的としている。初年度にあたる2016年度には、Erkシグナルを主眼として研究を進めた。蛍光プローブを利用してErkシグナルの活性を検出するシステムをマウス胚に応用するため、顕微鏡観察条件の最適化や必要なデバイスの開発を行った。また、奥行きのあるマウス胚の画像を解析するため、複数のz-stackから細胞ごとのシグナルの平均輝度を計測し蛍光強度比を自動で計算するアルゴリズムを作成した。以上にもとづいて、E0.5-3.5の着床前マウス胚におけるErkの活性を調べたところ、細胞ごとに変化するErkシグナルの活性を観察することができた。これまで報告されていた細胞の予定運命決定とどのような符号が見られるのか、今後さらに詳細な解析が期待される。また、今後の解析に向けて、分化マーカータンパク質の染色方法を確立し、着床前後胚の培養技術を導入することにも成功した。 さらに、「広汎の動物種においてStat3シグナルが多能性状態を維持するために働く」ことを報告する論文を当該分野で歴史と権威のある国際誌にて発表した。本研究の土台となるコンセプトを世界の発生生物学者に向けて発信できたことは、共同研究やディスカッションを発展させ、今後論文を発表するために大きなアドバンテージをもたらず重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Erkシグナルについては、活性を計測するシステムが導入されていたため、比較的短時間の内にマウス胚での観察を行うことができた。マウス胚の調整から顕微観察と画像解析まで一連の実験手技のプラットフォームを樹立することができ、今後の解析の礎を築くことができたと考える。一方で、Stat3の活性を検出するための分子ツールは現在のところ報告されておらず、その開発には時間を要する。 また、細胞周期に注目した実験も行った。FUCCI2マウスを用いて着床前後胚の細胞周期の移り変わりを観察した。原腸陥入期のマウス胚を培養する技術を導入し、内中胚葉系への分化を抑制する細胞周期制御因子を阻害することで胚葉形成への影響を観察した。内胚葉および中胚葉のマーカータンパク質を特異的に認識する抗体を使った染色条件を確立し、これらのマーカータンパク質の発現を検証することができるようになった。しかし、阻害が及ぼす影響は今のところ不明瞭であり、明確な表現型を示すためには、顕微技術や培養方法をより洗練する必要があることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
細胞周期の制御因子に注目した研究をさらに進展させるため、国外の研究者との共同研究を進めている。 哺乳類の胚において、未分化状態から分化状態への移り変わりと細胞周期機構の再構成は、着床の前後で進行するが、その分子機構を発生中の胚で調べるのは培養方法の限界から現段階では困難である。そこで、遺伝子単位での機能喪失と大規模シーケンサーによる網羅的解析が比較的容易であるin vitroの系を積極的に利用することを考えた。このために、細胞周期制御因子とシグナル経路の関連を解明し、着床前後に起こる分化ポテンシャルの変化を世界で初めて報告した英国・ケンブリッジ大学の研究者との共同研究を発展させた。実際に英国の研究所を訪れ、標的遺伝子のノックアウト細胞株の作成や培養条件の検討、コンピューターによる遺伝子発現解析などを進めている。また、着床前後胚の培養技術と観察方法を学ぶため、英国・オックスフォード大学においてテクニカルトレーニングを受けることも計画している。
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