研究課題/領域番号 |
16J08009
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
濱本 敬大 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | 非線形伝導 / 反転対称性の破れ / スピン軌道相互作用 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
今年度は反転対称性の破れた物質中における非線形、非相反伝導現象の研究に取り組んだ。 空間反転対称性の破れた物質に磁場をかけると、電流を流す方向によって電気抵抗の値が異なる非相反電気伝導現象が生じうる。この現象は本質的に非線形の電気伝導であり、光において観測されている方向二色性が電流においても存在し、電流に対して物質が整流作用を持つことを表す。我々は横磁場下のラシュバ系に対してボルツマン輸送方程式を用いることで電場の二次に比例する電流を計算した。面内のゼーマン磁場によってバンド構造が電流方向へ歪むことで非線形な応答が現れることを示し、さらに詳細な計算によって非相反性のキャリア密度や温度依存性を明らかにした。得られた結果は巨大なラシュバ型スピン軌道相互作用を有する極性半導体であるBiTeBrにおける実験結果と定量的に一致した。これにより、ラシュバ系における非相反性の微視的かつ定量的な起源を初めて突き止め、さらなる非相反性の増大にはキャリアを減らすことによって線形の伝導度を抑える必要があることを明らかにした。この研究は実験グループとの共著で筆頭著者とequal contributionとしてNature Physics誌に出版され、東京大学工学系研究科、理化学研究所からプレスリリースを発表した。 ボルツマン方程式による電場の二次の応答は電流だけでなく、スピン流へも容易に応用が可能である。そこで我々はラシュバ-ドレッセルハウス系や、3次元トポロジカル絶縁体の表面ディラック状態に対して、電場の二次に比例するスピン流を計算し、ゼロ磁場、室温においても有限のスピン流が生成されることを示した。この仕事は、すでに特許申請を行い、論文も投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画から方針を転換し、新たに反転対称性の破れた物質中における非線形伝導現象に取り組んだ。 この一年で実験グループとの共同研究がNature Physics誌に掲載され、アメリカ物理学会などの国際学会を含め多くの会議で成果報告を行った。また、そこから派生した研究も現在特許申請中かつ論文も投稿中であることから進捗状況としては申し分ないと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
上に示した研究を通して反転対称性の破れた物質中における非線形応答を、ボルツマン方程式という半古典理論で取り扱った。今後は量子力学的な非線形応答理論の定式化や、線形の場合のスキュー散乱やサイドジャンプ機構に対応するような散乱過程由来の非線形性などの探求が必要である。同時に、光照射下での応答などといった非平衡過程への適用も今後の課題である。あるいはベリー曲率など物質のトポロジカルな側面に由来する非線形伝導も今後の方針として興味深いあ
|