研究実績の概要 |
原因不明の静脈血栓症発症要因究明と個々に最適な抗血栓薬選択を目指した凝固因子異常症の分子病態解析と検出法開発を目的とした。 28年度は596Argミスセンス変異型トロンビンとトロンボモジュリン(TM)との相互作用解析を中心に研究し、分子間相互作用解析装置Biacore を用いて596Arg ミスセンス変異型トロンビンとTMとの相互作用を評価した。組換え型可溶性TM(sTM)を固相化したセンサーチップ上に野生型/4 種類の596Arg ミスセンス変異型(596Leu, 596Gln, 596Trp, 596Gly)トロンビンをそれぞれ添加したとき、各変異型トロンビンとsTM との結合レスポンス及び結合定数は様々な値を示した。生理的な塩化ナトリウム濃度ではsTM との結合レスポンスは野生型, 596Gln, 596Leu, 596Trp, 596Gly トロンビンの順に高かったが、これは以前に実施済みのTM によるトロンビン活性阻害能を評価したフィブリノゲン凝固法の結果を支持した。 Biacore を用いて塩化ナトリウム低濃度条件下におけるsTM と各変異型トロンビンとの結合量を評価した結果、対象とした全てのトロンビンで生理的条件下よりも高い結合レスポンスを示した。特に596Leu トロンビンとの結合レスポンスが著しく上昇した一方で、596Gln トロンビンとの結合レスポンスはわずかにしか上昇しなかった。置換したアミノ酸の荷電の差により変異型トロンビンとNa+との結合しやすさに差が生じたものと考えられ、トロンビン-Na+結合能の差がトロンビン-TM結合能に影響を及ぼすことが示唆された。596Arg ミスセンス変異型トロンビンが生理的抗凝固システムに抵抗することを詳細に解析したこれまでの研究成果を英文論文にまとめ、Thromb. Haemost. 誌に報告した。
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