研究課題/領域番号 |
16J08040
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中塚 賀也 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 緑膿菌 / IgA / RNase / 転写後調節 / 肺炎 |
研究実績の概要 |
本研究は、mRNA分解酵素であるRegnase-1が、下気道のIgA分泌を制御する機構を明らかにするとともに、その生理的意義を明らかにすることを目的とするものである。Regnase-1欠損マウスに対して気管支肺胞洗浄液中を行い、IgA濃度を測定したところ、Wild typeマウスに比べて著明な上昇を認めた。また、Regnase-1欠損マウスでは肺組織中・縦隔リンパ節中のIgA陽性形質細胞数が著しく増多していた。 気道におけるIgA分泌においては気道上皮細胞が大きな役割を果たし、マウス肺から単離した気道上皮細胞でもRegnase-1の発現が確認されことから、気道上皮細胞におけるRegnase-1発現の重要性に焦点をあてた解析を行うこととした。RNA sequenceによるRegnase-1欠損マウス由来気道上皮細胞での遺伝子発現量の網羅的解析の結果、pIgRやCCL28といった、気道上皮によるIgA分泌制御機構に関連する因子の発現量が上昇していることが明らかとなった。 さらに、ヒト気道上皮のモデル細胞であるCalu-3を用いて、CRISPR-Cas9システムによるRegnase-1欠損気道上皮細胞株を作成したところ、pIgRやCCL28の有意な発現量増多を認めたことから、Regnase-1はヒトでもこれらの因子の発現量を調節していることが示された。 次に、気道上皮におけるRegnase-1の欠損が感染に対し抵抗性となるか、Nkx2.1-Cre+ Regnase-1 flox/- マウスに緑膿菌の実験室株PA103を経気管的に感染させたところ、コントロールマウスに比べて体重減少が有意に軽減した。これらの結果から、気道上皮におけるRegnase-1を抑制することが、肺炎に対する新規の治療戦略となりうる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Regnase-1ノックアウトマウス由来気道上皮細胞を用いたRNA sequence解析の結果、種々の気道上皮特異的なRegnase-1標的遺伝子の同定に成功した。また、Nkx2.1-Creマウスを用いたコンディショナルノックアウトマウスの交配も順調に進んでおり、多くの基礎データが得られている。緑膿菌を用いた感染モデルについても確立し、さらなるデータの蓄積が期待される状況である。さらに、Regnase-1欠損Calu-3株の作成にも成功した。これらの実験ツールについてはほぼ当初予定していた期間内に揃えることができた状況であり、また想定されるデータについても概ね予定通りに得られている。また、平成28年度の日本免疫学会学術集会では口頭発表演題に選ばれ、成果の概要を発表した。これらの成果を総合すると、全体として概ね順調に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、Regnase-1による気道上皮におけるIgA分泌制御機構について解析を進めるが、気道上皮特異的なRegnase-1欠損マウスの作成に成功していることから、このマウスが緑膿菌の気道感染を来した際、どのような反応を示すか詳細に検討することで、Regnase-1の感染防御機構について、より上皮特異的な因子の解析を行う予定である。また、RNA sequenceの結果、当初予想していたよりも多くの標的候補となる免疫関連遺伝子の同定に成功したことから、これらの因子が実際に標的であるのか、またその生理的な意義について、in vitro・in vivoのモデルを用いた検討を行っていく予定である。
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