本研究は、mRNA分解酵素であるRegnase-1が、下気道のIgA分泌を制御する機構を明らかにするとともに、その生理的意義を明らかにすることを目的とするものである。昨年度までに、Regnase-1欠損マウスでは肺でのIgA分泌が亢進すること、気道上皮でpIgRやCCL28などのIgA分泌に関わる因子がRegnase-1の直接の標的であることを示した。本年度は、さらにRNA sequenceのデータ解析を進め、好中球遊走に関わる因子や内因性抗菌因子、T細胞との相互作用に関わる因子などの新規標的遺伝子を同定した。これらのmRNAが実際にRegnase-1によって認識されているかを確認するため、CRISPR/Cas9システムを用いてRegnase-1タンパクのC末端に人工ペプチドであるFLAG-Tagの配列を挿入したマウスを作成した。そのマウスの肺をhomogenizeしてFLAG-Tagに対する特異抗体によって免疫沈降を行い、Regnase-1結合RNAをRT-qPCRによって定量したところ、同定した遺伝子のRNA量がenrichmentしたことから、これらのmRNAがRegnase-1によって直接的に認識されることが示された。また、気道上皮特異的にRegnase-1を欠損するマウスを用いて緑膿菌感染モデルを解析したところ、これまでに得られたデータと一致して、このマウスでは肺内や気管支肺胞洗浄液中の好中球数増多を認めること、感染後の緑膿菌特異的IgA分泌の亢進を認めること、そしてこれらの所見に一致して緑膿菌再感染時に生存率の有意な改善を認めることが分かった。以上の結果をまとめると、気道上皮におけるRegnase-1はIgA分泌を制御する因子のみならず、内因性の抗菌分子や、好中球の遊走因子を制御することによって、気道上皮の感染防御機構を制御することが示された。
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