リゾホスファチジルセリン(LysoPS)は細胞膜脂質から生成し、シグナル分子として複数の特異的な膜受容体(Gタンパク質共役型受容体)サブタイプに働く脂質分子である。LysoPSの化学構造は親水性部位と疎水性部位、両者を連結するリンカーというモジュール構造に分けられる。申請者は、LysoPS受容体の機能解明に有用なリガンド(アゴニストやアンタゴニスト)を合理的に創生することを目指し、LysoPSのそれぞれのモジュール構造が受容体とどのように相互作用しているかに着目して、LysoPS誘導体の構造活性相関研究及び誘導体と受容体の1つに対する複合体モデル構築を進めてきた。 LysoPS誘導体が受容体に結合した際、誘導体の疎水性モジュール末端は、受容体の外に出て細胞膜脂質と相互作用することが複合体モデルから想定された。また、本結合モデルから、LysoPS誘導体は細胞膜に挿入された後、細胞膜の側方拡散を介して受容体に出入りする経路が示唆された。実際に昨年度、計算機上で受容体モデル構造に結合したLysoPS誘導体を細胞膜方向に引き抜くシミュレーションに成功した。本年度は、LysoPS誘導体の結合・解離経路を検証すべく、昨年度に引き続き、疎水性末端にリンカーを介して親水性基を導入した誘導体の合成・活性評価を行った。結果、LysoPS誘導体が細胞膜の側方拡散を介して受容体に出入りするという仮説と矛盾ない活性結果を得た。現在、上記結果の総括と論文投稿準備を進めている。 また、本年度はLysoPSの親水性部位に着目して新規誘導体合成を進め、LysoPS受容体の1つに対して、新規アンタゴニストを創生することに成功した。今後、アンタゴニストの構造活性相関をより詳細に調べ、複合体モデルを用いた分子動力学シミュレーションを組み合わせてリガンドが受容体活性化を阻害する分子機構の解明を目指す。
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