研究課題/領域番号 |
16J08078
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
木村 成子 滋賀県立大学, 環境科学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / ウイルス / 共進化 / 年縞堆積物 |
研究実績の概要 |
本研究は、自然環境中におけるファージおよび細菌の共存理由解明のため、それらの共進化を通した多様化の様式を解明することを目的としている。本年度は、本研究の対象宿主を決定するために、350年の歴史を反映する深見池の年縞堆積物中のシアノバクテリア群集組成を再構築し、その継時的な組成変動について調べ、優占宿主を特定した。採取した堆積物試料を3-10 cm間隔でスライスし、各層より抽出したDNAを鋳型として、シアノバクテリア16S rRNA遺伝子に特異的なプライマーを用いてV3/V4領域をPCR増幅後、MiSeq (イルミナ社) を用いて配列を決定した。解析した全試料より標的遺伝子配列を得ることができ、合計で約80万リードの塩基配列を決定した。それぞれの得られた配列を97 %塩基配列相同性でクラスタリングし、クラスターをサイズの大きい順に並べ替えた。その結果、ドリコスペルマム属およびシネココッカス属が得られた配列数の80 %を占め、それらは全層に渡って優占した。ドリコスペルマム属は、1951年以前はほとんど認められなかったが、それ以降、シアノバクテリア群集で大きな割合を占めた。一方で、シネココッカス属は、1951年以前に群集でもっとも大きな割合を示し、それ以降は減少傾向を示した。したがって、今後、この3属を対象宿主として、ウイルスメタゲノム解析を進めていく予定である。さらに、深見池が、これまでに経験した大きな環境の変化をもたらすイベント:大満水洪水(1850年)、濃尾地震(1891年)および高度経済成長(1950年以降)とシアノバクテリア群集組成変動を比較したところ、シアノバクテリア群集組成は1800年代に起こった大満水洪水や濃尾地震による自然過程による一時的な富栄養化の影響は受けなかったが、1951年以降の人工的な富栄養化と共に、その組成が大きく変化したこともわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、今後の研究の対象とする微生物の決定は重要な課題の一つである。本年度は、深見池の年縞堆積物において、全層に渡ってシアノバクテリア16SrRNA遺伝子配列を決定し、約350年に渡るシアノバクテリア群集組成変動の再構築を行なった。それにより、本調査池では、ドリコスペルマム属あるいはシネココッカス属が、全層に渡って優占し、それらを今後の研究の対象宿主として決定することができた。また、現在、湖水中のウイルスメタゲノムを行い、宿主として選定したシアノバクテリア3属に感染するファージゲノムを構築している最中である。これらの結果は、ファージおよび宿主の共進化を通したそれらの多様化の様式を調べるための基礎的知見となるもので、最終目標に向けておおむね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において、深見池の年縞堆積物全層に渡って優占するシアノバクテリアがドリコスペルマム属およびシネココッカス属であることが分かった。さらに、ドリコスペルマム属と相同性を示した5つのOTUの中、2つのOTUが99.9%を占めた。それら2つのOTUは、ドリコスペルマム・スミティTAC431株およびドリコスペルマム・クラスムTAC436株と最も高い相同性を示した。したがって、今後、本2株の全ゲノム解析を解読し、ゲノム上のファージ抵抗性に関連した遺伝子;膜たんぱく遺伝子やCRISPR (Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)等をマーカー遺伝子として、それらの経時的な遺伝的多様性の変化を観察する。また、湖水中のウイルスメタゲノムを行い、宿主として選定したシアノバクテリア3属に感染するファージゲノムを構築する。得られたファージゲノムをリファレンスゲノムとして、堆積物中のウイルスメタゲノムをマッピングし、多様性の高い領域を探索し、それらの継時的変化を観察する。宿主が有するファージ抵抗性に関連した遺伝子とファージ遺伝子を比較することで、両者の多様性の維持と創出の機構を明らかにするとともに、その遺伝子の機能から多様性創出機構を推定する。
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