研究課題/領域番号 |
16J08092
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
南木 創 東京大学, 生産技術研究所, 特別研究員(PD) (40793980)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / 自己組織化単分子膜 / 分子認識 / 化学センサ |
研究実績の概要 |
本研究では,有機トランジスタをプラットフォームとした化学センサデバイスを基に,被検査物質の簡便な水中検出を達成し,かつ高信頼性を有する分析ツールの開発を目的とする。平成28年度は以下の内容を検討した。 1) 構造的アプローチに基づく分子認識膜の機能性制御:様々な化学種が共存する測定媒質中では,被検査物質のみを明瞭に識別するために夾雑的要素を排する工夫が必要となる。センサデバイスのS/N比向上に向けた簡便な手法を開拓するため,分子認識膜の高次構造依存性を調査した。具体的には,同一の両末端官能基 (カルボキシ基およびチオール基) および異なるリンカー部 (アルキル直鎖または芳香環) を有した材料群を用い,単分子膜として検出部電極 (金) 上に導入することで,膜物性および標的種 (ヒスタミン) 応答能の違いを検証した。滴定実験の結果,単分子膜毎に異なる応答信号が得られた。電極表面の分析結果より,この差異は単分子膜の高次構造の違いに起因するものと考えられ,本手法がデバイスの検出能制御において有用であることを示唆する結果となった。 2) 電荷変調機構を有する有機トランジスタの基礎検討:電子デバイスに基づく化学センサは,定量的な検出情報を簡便・迅速に取得できることから,化学分析システムの普及に貢献し得るプラットフォームといえる。一方で,電気的な検出信号を正確に取得するためには,基準電位となる参照電極が一般に用いられるが,当該電極は小型化・低コスト化への障壁となる。そこで,トランジスタの多点的電界制御に着目し,電荷変調型有機トランジスタに基づく参照電極フリーな化学センサデバイスの構築に取り組んだ。電荷変調機構を有するトランジスタに分子認識膜を導入し滴定実験を試みたところ,標的種濃度に依存した閾値電圧の明瞭な変化が得られたころから,本デバイス構造のセンサとしての有効性を検証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検出電極上における単分子膜構造とトランジスタの分子認識能との間の相関性を調査し,構造的アプローチに立脚したセンサのS/N比向上に向けた知見を見出すことができた。また,電荷変調機構および分子認識膜を導入した有機トランジスタを作製し,分子認識情報を適切に取得できることを確認することで,センサデバイスの基本設計指針を得ることができた。得られた成果の一部は既に誌上・学会等において対外発表している。当初の研究実施計画に沿った形で結果が得られていることから,現在までにおおむね順調に研究が進展しているものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
単分子膜構造がセンサデバイスの検出能に及ぼす影響について,基礎的知見が得られたため,平成29年度は当該アプローチに基づいて様々なレセプタ部位を有する単分子膜材料を検討し,センサデバイスの分子認識能制御手法確立を目指す。また,トランジスタの特徴である集積化を指向したデバイス設計をおこない,電荷変調機構に基づく有機トランジスタ型化学センサのさらなる信頼性向上・小型化を試みる。
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備考 |
受賞等:日本化学会第96春季年会学生講演賞 (2016年5月), ICFPE2016 Student Poster Award (2016年9月) 報道等:「たんぱく質迅速センサー」日経産業新聞 平成28年11月4日掲載
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