研究課題/領域番号 |
16J08094
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
寺岡 佳晃 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | リポカリンタンパク質 / ジスルフィド結合 / L-PGDS / 安定性 / フォールディング / 化学変性 / 尿素 |
研究実績の概要 |
本研究は,リポカリンタンパク質に高度に保存されたジスルフィド(SS)結合による,βバレル構造の安定化機構の解明を目的とする。平成29年度は,SS結合がリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)の安定性に与える影響について,主に熱力学的調査を行なった。 【L-PGDSおよびSS結合欠損L-PGDSの化学変性実験】 PBS(pH 7.4)において示唆走査型熱量計(DSC)を用いた熱変性実験を試みたが,SS結合欠損L-PGDSにおいて高温状態における不可逆な凝集体形成が観察され,解析が困難であった。したがって,代替法として化学変性剤(尿素)を用いた変性実験を行うこととした。はじめに,尿素(8.0 M)を用いてL-PGDS,およびSS結合欠損L-PGDSを変性させた後,透析法により尿素を除去し,各タンパク質のリフォールディング活性を調べた。両タンパク質ともに尿素変性に対する可逆性を示したことから,本変性過程は二状態転移モデルによって説明できることが示された。次に,温度5.0-55℃において尿素濃度を0-6.0 Mまで変化させ,各タンパク質の220 nmにおける円偏光二色性(CD)強度をプロットし,解析により変性の熱力学的パラメータを決定した。解析の結果,本SS結合は変性状態におけるエントロピー損失だけでなく,天然状態におけるエンタルピー利得によってもL-PGDSの安定性に寄与していることが示された。 【研究成果発表】 上記の研究成果に関して,The Protein Society 31st Annual Symposium,日本農芸化学会 関西・中四国・西日本支部 2017年度合同大阪大会,および第40回日本分子生物学会年会 第90回日本生化学会大会 合同大会において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SS結合欠損L-PGDSの不安定性の高さにより,当初予定していたDSC測定による熱変性実験が困難であったが,代替法として検討した化学変性実験により目的の熱力学的パラメータを決定することに成功した。これにより,計画していた熱力学的な解析を全て達成することができたため,次年度は構造生物学的な研究を集中して行うことができると期待される。以上より,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
分子動力学(MD)シミュレーションを用いて,SS結合がL-PGDSのコンフォメーションに与える影響について詳細な調査を行い,現在までに得られている熱力学的な知見を構造生物学的に解釈することを目指す。 具体的には,GROMACS(ver. 2016.5)を用いて,L-PGDS,およびSS結合欠損L-PGDSのMDシミュレーションを実施する。シミュレーションの初期座標は,Protein Data Bank(PDB)に登録されているL-PGDSの結晶構造を利用する(SS結合欠損L-PGDSは,L-PGDSの座標から作成する)。タンパク質の分子力場にはAmber ff14SB,水モデルにはTIP3Pモデルを適応する予定である。各タンパク質について500 nsのシミュレーションを計3回行い,結果の再現性についても確認を行う。
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