研究課題/領域番号 |
16J08096
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷 義隆 東京大学, 工学(系)研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロ波 / ECR / イオンエンジン / はやぶさ |
研究実績の概要 |
当初の研究計画に則り、マイクロ波放電式中和器の大電流化のため、中和器内部へ含浸陰極を設置し、マイクロ波放電と直流放電のハイブリッドにより電子電流向上を試みた。含浸陰極接地部に断熱措置を何点か行ったが、自己着火には成功しなかった。しかしながら、熱電子放出後の加熱維持には成功し、これにより中和器への投入電力は35W程度と、通常と大きく投入電力を変化させることなく、3A超の電子電流引き出しが可能となった。総電子電流の増加に伴い、中和コストの面ではノミナルから40%程度の改善となった。また、寿命面の見なおしも行うため、修士課程において電子引き出しなし状態でのみでの計測であった四重極質量分析器による二価イオンの測定を、電子引き出し状態で行った。この結果、スロットリング状態では3.4倍程度の速さで損耗が進むことが明らかとなり、これをもとに宇宙運用と地上試験との寿命差異を説明した。また、目標とされたアンペア級の電子電流の引き出しが達成されたため、これらに加えて、中和器と対になるマイクロ波放電式イオン源の大電流化にも取り組んだ。これは、電子源・イオン源両面のシステム全体の性能向上を図るためである。今までパラメータを変化させていなかったグリッド位置の変更を行った。イオン源は電子源と異なり大電流化が困難であるが、投入電力をノミナルから変化させることなくおおよそ10%の性能向上を達成した。これは磁場形状とグリッドの相対位置が変化したために性能向上に繋がったと考察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は当初マイクロ波放電式中和器の大電流化のみを目的としていたが、期待された性能が得られるようになったため、中和器のみではなくイオン源含めたイオンスラスタ全体の大電流化に関する研究へと移行した。これにより当初想定していたものよりもより実際のスラスタへの適用範囲が広いものとなっており、研究は想定以上の進展があるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の計画として、まずはイオン源の大電流化を主眼において研究を行う予定である。なぜならば、本研究が対象とするイオン源は中和器に比べて大きな性能向上を未だに達成できてないためである。このイオン源は、直近に計画されているミッションにおいて、200mAを超える性能を要求されている。そのため、本研究では210mA程度の性能向上を目標とし、性能向上とその指針を模索する。具体的には、放電室設計変更を行い、複数の異なる放電室形状でパラメータを変化させてそれぞれを比較することにより、性能評価と設計指針を得る。既に新たな形状の設計は完了している。性能評価が完了し次第、プローブや分光法を用いた放電室内部のプラズマ計測へと移行して、性能変化の原因の調査を行う。これらのデータを元に、ECRプラズマ源の設計指針の模索に入る予定である。
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