研究課題
本年度は、①解糖系の破綻による細胞死誘導の評価と②チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) 耐性株におけるBCR-ABLの発現制御機構の解明を目的として以下の検討を行った。①について、まずマイクロアレイ解析を行い、BCR-ABLの変異によって解糖系関連分子の発現に変化が生じないことを確認した。続いて、中鎖脂肪酸誘導体AIC-47を添加した細胞で解糖系関連分子の発現解析および乳酸産生量の測定を行った。その結果、AIC-47を添加した細胞で解糖系の破綻が示唆された。また、in vivoモデルにおける抗腫瘍効果の検討を試みた。AIC-47投与群で生存期間の延長傾向があったが、有意差は認められなかった。以上より、変異細胞においても解糖系機構を破綻させることで細胞死を誘導できることが明らかとなった。また、AIC-47は変異の有無に関わらず解糖系を破綻させることから、TKIとは異なる作用点で解糖系機構にアプローチしていると考えられた。その作用点を明らかにするため来年度はAIC-47の標的分子同定を行い、本年度の成果と併せて論文を執筆する予定である。②については、まずmiRNAという観点からの解明を試みた。変異細胞においてBCR-ABLを標的とするmiRNAの発現が低下していることが明らかとなった。2種の方法でmiRNAのプロモーター領域のメチル化レベルを検証したが、野生型と変異型の細胞間での差異が小さく、メチル化以外の要因によって発現が制御されている可能性が示唆された。そこで、タンパク質の合成阻害実験を行ったところ、変異細胞においてはオートファジーの誘導不全によるBCR-ABLタンパク質の分解遅延が起こっていることが明らかとなった。またマイクロアレイ解析と阻害剤実験の結果から、その制御に関わる主要分子としてBcl-2およびBcl-xLを同定した。現在論文の投稿準備中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度はTKI耐性株における解糖系の破綻による細胞死誘導の評価を行う研究計画であった。当初の計画通り、耐性株における解糖系関連分子の発現解析および乳酸産生量の測定を行い、その成果としてTKI耐性細胞の新たな治療標的として解糖系機構の破綻が有用であることを示すことができた。さらに、白血病モデルマウスにおける抗腫瘍効果の検討および解糖系関連分子の発現解析を試みたが、有意差は認められなかった。次年度の課題として、投与回数や投与経路に関する検討が必要である。また、来年度遂行予定であったmiRNAによるBCR-ABLの発現制御機構に関する解析を一部、本年度中に進めることができた。当初、プロモーター領域のメチル化によるmiRNAの発現低下とBCR-ABLの発現制御を仮説として計画を提出したが、野生型と変異型の細胞間でメチル化レベルの差異が小さかったことからメチル化以外の要因による発現制御が考えられた。そこで、タンパク質の分解系に着目して検討を進めた結果、BCR-ABLの発現制御機構の1つとしてオートファジーによる分解が関与していることを見出した。特に変異型細胞においてはBcl-2およびBcl-xLによってオートファジーの誘導不全が生じており、BCR-ABLの発現制御が野生型と異なっていることを示唆するデータを得た。現在、オートファジーによるBCR-ABLの分解制御とTKI耐性との関連性について論文をまとめ、投稿準備を行っている。
本年度の検討結果から、TKIとは異なる作用点で解糖系を標的とする治療法がTKI耐性の克服に有用である可能性が示唆された。また、中鎖脂肪酸誘導体AIC-47はその候補化合物の1つとして期待できる結果が得られた。今後の研究方策として、in vivoにおける効果の評価と標的分子の同定が必須であると考えられる。そこで次年度は、①白血病モデルマウスにおける中鎖脂肪酸誘導体の投与方法の検討と②中鎖脂肪酸誘導体の標的分子の同定を検討課題としたい。①についてはリポソームをドラッグデリバリーシステム(DDS)として使用し、静脈投与による投与方法を検討する。モデルマウスに対して投与し、抗腫瘍効果の検討および解糖系関連分子の発現解析を行う。②に関しては中鎖脂肪酸誘導体のアミノ体化をNHSビーズに固定化し、標的となるタンパク質のプルダウンアッセイを行う。プルダウンされたタンパク質を質量分析により解析および同定する。同定した分子についてsiRNAを用いたサイレンシングを行い、解糖系およびBCR-ABLの発現制御との関連性を検討する。
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