研究課題/領域番号 |
16J08137
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
周 至文 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | アストロサイト / cyclic AMP / 海馬 / 記憶 / てんかん |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者が作製に携わり、有用性を検証したアストロサイト特異的に光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC)を発現する遺伝子改変マウスを利用し、海馬に局所的な青色光刺激を与え、海馬のアストロサイトのcAMP濃度を上昇させた場合、海馬の機能へ与える影響を調べた。本研究は、海馬の主要な機能である空間認知と記憶処理能力についてまず検証した。記憶獲得後、海馬アストロサイトのcAMPを持続的に(1時間)上昇させた場合、獲得した記憶がテスト時動悸できなくなったことを確認した。また、記憶獲得の前後に海馬アストロサイトのcAMP濃度を一時的に上昇させた場合、記憶の獲得に与える影響を調べた。記憶獲得時または直後のcAMP上昇は記憶をより長く保持させたことを発見した。また、記憶獲得の直前にアストロサイトのcAMP濃度を上昇させた場合、記憶の保持への影響を検出できなかった。つまり、海馬アストロサイトのcAMP濃度上昇はタイミングに応じて空間記憶を双方向に制御することが示唆された。次に、海馬はてんかん発作において重要な脳部位であり、発作起始部であることがしばしば見られる。海馬アストロサイトのcAMP濃度上昇が急性てんかん発作に与える影響を検討した。二種類のけいれん誘導薬でてんかん発作を引き起こし、光刺激によってアストロサイトのcAMP濃度を上昇させた場合、てんかん発作が阻害されたことを発見した。この発見は急性のてんかん発作の対処法または難治性てんかんの治療に進歩をもたらす可能性を秘める。 本研究は、海馬アストロサイトのcAMPシグナルに着目し、光遺伝学的な制御によって海馬の複数の機能に影響与えることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.計画どおり光刺激に応じてcAMPを合成する酵素であるPACを発現する遺伝子改変マウスの作製に成功した。 2.アストロサイト特異的にPACを発現する遺伝子改変マウスを利用し、PACの発現およびその機能を検証することができた。 3.in vivoで海馬に光刺激を与え、記憶を操作した場合、先行研究と一致した結果が得られた。 4.光遺伝学特有な高い時間分解能を利用し、異なるタイミングの光刺激を与え、記憶を双方向に制御することができた。 5.薬物によるてんかん発作を誘導し、光刺激によって海馬アストロサイトのcAMP上昇させた場合、てんかん発作を抑制する効果があることを発見した。この発見はてんかん発作のメカニズムに迫ると同時に、急性のてんかん発作の対処法または難治性てんかんの治療に進歩をもたらす可能性をもつ。
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今後の研究の推進方策 |
in vivoで海馬に光刺激を与えたときに観察された行動変化のメカニズムを解明することを目的とする。まず、in vivoで光刺激を行った場合、組織免疫化学法によってアストロサイトに発現するタンパク質の変化を調べることによってアストロサイトに与える直接的な影響を検証する。また、行動変化につなぎうる神経細胞の変化を調べるために、組織免疫化学法によって活動した神経細胞を標識する。また、光刺激と同時に脳波を記録することで神経活動への変化を検証する。
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