研究課題/領域番号 |
16J08143
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 珠葉 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | リン / リン酸エステル / アルカリフォスファターゼ |
研究実績の概要 |
①白鳳丸KH-17-4次航海に参加し、北緯23度観測ラインに沿って現場海水への微量金属の添加培養実験を行い、生物のリン利用に関する律速状況を明らかにした。実験を行った4測点のうち、東経160度上の1測点において鉄および亜鉛添加区のアルカリフォスファターゼ活性が有意に上昇し、対照区の活性に対し最大1.5または2.5倍の値を示した。このとき、リン酸添加区の活性は大幅に減少しており、リン・鉄・亜鉛のいずれもが生物の増殖制限要因となっていることが明らかになった。また、亜鉛添加区での活性の上昇は太平洋中部(西経170度)でもみられた一方、鉄添加区での活性の上昇は東経160度以西でのみ観測された。このことから、大陸からの距離、すなわちダスト降下量の勾配がこのようなアルカリフォスファターゼの発現特性の違いを生み出している可能性が考えられる。 ②昨年7月に父島沖観測点において、4日間にわたり12時間毎に表層200mから海水を採取し、試料中のリン酸塩および易分解性リン酸モノエステル濃度の測定を行った。このとき、リン酸塩躍層上部(<100m)におけるリン酸塩およびリン酸モノエステル濃度は平均で5および9nMであった。両者の水柱積算値は互いの山と谷が一致するような逆位相の周期的変動を示し、またその変動幅も同程度であった。時差相関の結果その周期はおよそ48-60時間であると考えられた。よって、この周期的変動はリン酸モノエステルを介したリンの再生生産に伴う現象であると示唆された。この仮定のもと算出したリン酸塩の回転速度はおよそ0.2nM/hであった。このようなリン酸塩とリン酸モノエステルの時系列変動は、同期間中の基礎生産速度の変動とも同期する傾向を示したことから、両者の速やかな消費・再生が基礎生産の維持に一定の役割を果たしていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度予定していた研究計画とは一部異なるものとなったものの、本年度は概ね研究課題に沿って順調に進展したと判断する。特筆すべき事項としては、研究航海に参加し北太平洋亜熱帯海域の広範囲において、リンおよび微量金属の共制限環境について興味深い事象を捉えたことである。リン酸枯渇海域にて、アルカリフォスファターゼ活性が亜鉛や鉄によって制限されていることを明らかにした点は新規性が高く、今後未解析試料の分析することでさらなる成果が期待される。加えて、父島周辺海域においてリン酸およびリン酸モノエステルが同じオーダーで経時的に増減する様態を捉えた点も評価に値する。この結果は、既存のスナップショット的観測では枯渇したように見えていた栄養塩と、その一方で季節的変動を示す基礎生産とをつなぐミッシングリンクの解明に貢献するものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は本研究計画の最終年度であり、これまで収集した試料やデータの分析・解析を中心に進め、博士論文の執筆に従事する予定である。以下は主な分析予定試料とそこから期待される結果である。 ①白鳳丸KH-17-4次航海にて得られた栄養塩サンプルを分析し、北緯23度観測ラインにおけるリン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル濃度の水平・鉛直的分布を明らかにする。北太平洋亜熱帯域ではリン酸濃度が東西勾配を示しており、西側の海域ではリン酸塩が枯渇しているため、リン酸エステルが生物にとって重要なリン源であると考えられる。そのような海域を横断する観測を行うことで、東西方向でのリン酸エステルの生物利用度の違いを立証することが可能となり、またその利用メカニズムの解明の端緒となると考えられる。 ②現場海水への微量金属添加培養実験の際に得られた遺伝子試料を分析し、複数あるアルカリフォスファターゼの種類別の発現量の比較を行う。アルカリフォスファターゼは貧栄養海域においては補欠因子となる微量金属の枯渇により、その発現が制限されている可能性がある。加えて、補欠因子は酵素の種類によって鉄・亜鉛・カルシウムと様々であり、発現量解析を行うことで添加した金属に対しどの種類の酵素の発現量が変化したかが明らかとなる。
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