本研究は、窒素・リン・鉄・亜鉛という4つの要素が植物プランクトン、とりわけ生物地球化学的に重要な窒素固定生物に与える影響評価を核にして、一次生産の共制限メカニズムについて解明することを目的とした。本年度は、前年度に参加した研究航海にて採集したサンプルの分析・解析を行うとともに、博士論文の執筆に専念した。 北太平洋亜熱帯海域の横断観測ラインにおける研究結果からは、主に次の2点が明らかになった。1点目は窒素固定活性および窒素固定群集組成についての広域的な分布であり、前者はハワイ諸島周辺を中心に最大値を示す山形の分布を示した。主要な窒素固定生物は東から順に珪藻に共生するRichelia属、群体性のTrichodesmium属、単細胞性シアノバクテリアなどと遷移し、それぞれが地理的に明瞭なニッチを形成することが示唆された。このとき、窒素固定生物にとって好適な環境においては、易分解性のリン酸モノエステル(ME)濃度が窒素固定活性の分布指標の一つとなることが明らかとなり、窒素固定生物にとってMEが重要なリン源である、あるいは窒素固定生物自身がMEの主要な生産者であることが示唆された。 2点目は、西部北太平洋における栄養制限に関して、上述と同じ航海中に行った添加培養実験では、微量金属である鉄や亜鉛の添加によりアルカリフォスファターゼ活性が顕著に促進された一方、植物プランクトン群集組成やクロロフィルa濃度には有意な変化が認められなかった。その要因としては、設定した培養期間が不十分であった可能性、もしくは鉄や亜鉛が微生物群集のリン獲得における律速要因であった一方、その直接的な増殖律速要因ではなかった可能性が考えられた。本結果をふまえ、今後は分析結果のさらなる解析に加え、培養時間や添加系列を再検討するなどして、栄養制限メカニズムの解明に尽力したい。
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