研究課題/領域番号 |
16J08220
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阪井 研人 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 再生可能エネルギー / 二酸化炭素還元 / バイオ電池 / メディエータ電子移動型酵素電極反応 / 直接電子移動型酵素電極反応 / ガス拡散型電極 / 酸化還元ポリマー / 多孔質炭素電極 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,ギ酸/二酸化炭素対の生物電気化学的相互変換系を構築し,炭素数1の化合物の酸化還元反応を軸とした新規エネルギー戦略として提言することである.平成28年度では,当該変換系の触媒として利用する酵素(ギ酸脱水素酵素)のさらなる特性評価と,新規ギ酸イオン酸化極,二酸化炭素還元極の構築を行った. 前者において,ギ酸脱水素酵素の多孔質電極上での振る舞いについて,新たな知見を得た.本酵素反応を電極反応と共役するには,低分子酸化還元物質(メディエータ)に酵素・電極間の電子伝達を仲介させる方法があった.本研究では,酵素程度の大きさの孔を有する多孔質電極を用いると,酵素・電極間で直接電子伝達が起きる直接電子移動型反応系(DET型反応)も構築できることを示した.DET型反応は,酵素の電子伝達反応を直接反映するため,さらなる酵素への理解を深めることが期待できる.本成果は,Electrochim. Acta詩に掲載済みである. 一方,後者において,ギ酸イオン酸化極では,酵素を電極表面に集積させることで,性能向上を図った.メディエータを用いた反応系では,その電流密度は,電極表面上の酵素・メディエータ濃度に依存するため,酵素・メディエータを電極表面上に集積することが重要である.本研究では,ポリマー型のメディエータを合成し,それを用いて多孔質電極上へのギ酸脱水素酵素・メディエータ高密度固定を実現した.本成果は,Electrochem. Commun.誌に掲載済みである.また,二酸化炭素還元極においては,気体状の二酸化炭素を,電極表面の酵素に直接供給する系を用いて,これまでにない高効率の二酸化炭素バイオ還元系の構築に成功した.本成果は,Electrochem. Commun.誌に掲載済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,一種類の酵素を触媒として,ギ酸イオン酸化,二酸化炭素還元の双方を実現するものである.そして,実用化に資するギ酸/二酸化炭素対の変換系を構築するには,触媒である酵素の特性をより深く理解し,実際に変換反応を担うデバイスに展開していく必要がある. 酵素特性評価では,当初は,酵素の構造を改変するという,酵素側からのアプローチを行う予定だった.本研究はある程度進行しているが,論文出版などの段階には至らなかった.しかしながら,酵素程度の穴を持つ電極(多孔質電極)を利用することで,酵素が電極と直接電子伝達できることが判明したため,平成28年度は,多孔質電極を用いた際の,酵素・電極間の電子移動反応の解析に関して,主に実験を行った.酵素・電極間の直接電子移動反応は,酵素の情報を直接反映するため,本知見は,より酵素そのものの特性を評価する研究につながる. 一方,デバイスに展開していく研究では,当初の予定通り,新規酸化還元ポリマーを合成し,酵素と共に電極上に固定化することで,ギ酸イオン酸化極の高出力化を達成することができた.本知見は,高出力のバイオ燃料電池を構築する際に必須であり,大きな成果だと考えている.それだけでなく,気相の二酸化炭素を直接ギ酸イオンに還元する,という大胆な発想から,ガス状の二酸化炭素を酵素が高速電解できる系を構築した.このシステムを用いた二酸化炭素バイオ還元系は世界初の試みである. 以上が,現在までの進捗状況である.本研究の目的は,ギ酸/二酸化炭素対の生物電気化学的相互変換系の有用性を提言することである.そのため,酵素反応の理解に対するアプローチに変更はあったものの,全体的には,順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,実用化に資するギ酸イオン/酸素バイオ燃料電池を創出することに注力する.酵素を電極触媒とした負極(ギ酸イオン酸化極)と,正極(酸素還元極)の研究を並行して行う予定である. ギ酸イオン酸化極では,今までの二次元的な広がりを利用していた電極に代わり,より三次元的な広がりを有する電極を利用して,より多くの酵素・ポリマーを固定化する.また,本電池では,酸素を正極で用いるにもかかわらず.負極近傍に酸素が存在すると,短絡して測定できなくなるという最大の欠点が存在する.この欠点に対して,酸素消費機構を有するポリマーを用いて,負極近傍まで酸素がたどりつかない系を構築することで,欠点の克服を目指す. 酸素還元極では,酸素の溶解度が低いため,ガス状基質を直接利用できるガス拡散型電極を利用するのが一般的である.これまでの研究では,電解液が弱酸性の条件でしか,効率的に反応できていない.一方,本デバイスでは,負極との関連から,電解液は中性条件であることが望ましい.そのため,新規に中性条件でも反応効率が落ちない酸素還元系の構築を行う予定である.具体的には,反応系の選択(メディエータを用いるかどうか),電極材料,反応条件の最適化を行う予定である.ガス拡散型反応系は,非常に複雑な構造を持つため,反応条件の設定の影響を強く受けると考えられる. 最終的に,最適化を行ったギ酸イオン酸化極と酸素還元極を組み合わせ,ギ酸イオンと酸素を用いて発電するデバイスである,高出力ギ酸イオン/酸素バイオ燃料電池を構築する予定である.この際,負極・正極の双方が満足する条件の最適化を行う必要があると考えている.
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