研究課題
活性酸素種(ROS)であるヒドロキシラジカルは、特に強い酸化力を有し、生体高分子に酸化障害を引き起こすが、生体内での半減期は短い。このため、ROSの中で半減期が比較的長く、かつその前段階のROSである過酸化水素を制御する方が生物にとって効率的である。マダニは偏性吸血性節足動物で、宿主由来血液には遊離鉄が大量に含まれ、その鉄分子とマダニ体内に存在する酸素分子が反応し、多量のROSの発生が予想される。したがって、マダニ体内における過酸化水素の制御は、マダニの発育に不可欠である。そこで、過酸化水素消去への関与が考えられるペルオキシレドキシン(Prx)に着目した。先行研究で、フタトゲチマダニ由来2-Cys型ペルオキシレドキシン(HlPrx2)は、過酸化水素消去による抗酸化活性を有することが明らかとなっている。これを踏まえ、マダニPrxの吸血・産卵に果たす役割について解析を行った。マダニ体内でのHlPrx2遺伝子および蛋白質の発現動態・局在を明らかとするために、定量的PCR、抗血清を用いたウェスタンブロット法、間接蛍光抗体法を行った。その結果、マダニの吸血に伴いHlPrx2の発現量が増加し、特に中腸と卵巣において顕著であった。また、中腸の基底膜および卵巣の細胞膜に局在が認められた。さらに、RNA干渉法によるHlPrx2遺伝子ノックダウンを行い、HlPrx2のマダニ体内での吸血・産卵に果たす役割並びに過酸化水素濃度への影響を解析した。その結果、HlPrx2遺伝子をノックダウンしたマダニでは、飽血体重、卵重量、産卵数が対照群に比べ有意に減少し、マダニ体内の過酸化水素濃度も増加傾向を示した。以上の結果より、HlPrx2は、中腸並びに卵巣において抗酸化応答への関与が推察され、マダニの吸血・産卵や過酸化水素濃度の制御に重要な分子であることが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、吸血期でのマダニ体内におけるHlPrx2の遺伝子並びに蛋白質の発現解析を遂行することができた。また、本研究成果は、平成28年度に投稿論文としてまとめ、発表済みである。
本年度の成果により、HlPrx2が、マダニの吸血・産卵並びに過酸化水素濃度の制御に重要な分子であることが示唆された。当初の計画通り、最終年度は、組換えHlPrx2で免疫した宿主動物でマダニを吸血させ、ワクチネーションによるマダニの吸血・産卵に及ぼす影響を評価し、HlPrx2がワクチン標的候補分子になるか検証していく。
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