平成28年度の研究成果から、マダニペルオキシレドキシン (HlPrx2) は、マダニの吸血、産卵並びに過酸化水素濃度の制御に重要な分子であった。このため、組換え HlPrx2 (rHlPrx2) で免疫した宿主動物でマダニを吸血させ、マダニの吸血、発育並びに産卵に及ぼす影響を評価し、HlPrx2 がワクチン標的候補分子となるか検証した。実験群として、rHlPrx2 のみ免疫群、rHlPrx2 と同量のフロイント不完全アジュバント (IFA) を混合し免疫した群、陰性対照として、rHlPrx2 の代わりにリン酸緩衝液 (PBS) を使用した2群の4群を設定した。抗体価は、ELISA を用いて測定した。免疫動物は、日本白色ウサギ並びに BALB/c マウスを用いた。ウサギ並びにマウスにおいて、rHlPrx2 のみ免疫でも十分な抗体価を誘導でき、さらに、宿主体内にできた特異的抗体が、マダニ吸血に反応した。特に、免疫マウスにおいて、rHlPrx2 のみ免疫群で Th2 免疫経路のマーカーである IgG1 を特異的に誘導した。しかし、実際に免疫ウサギで雌成ダニを吸血させたところ、吸血並びに産卵への顕著な影響は認められず、また免疫マウスで若ダニを吸血させても、若ダニの吸血並びにその後の発育への顕著な影響は認められなかった。 これらの結果から、宿主への rHlPrx2 免疫はマダニの吸血、発育並びに産卵に大きな影響を及ぼさないことが示唆された。しかし、rHlPrx2 のみの免疫でも宿主に十分な抗体価を誘導でき、さらに Th2 免疫経路のマーカーである IgG1 抗体を特異的に誘導したことから、rHlPrx2 は Th2 免疫経路賦活型の生物由来アジュバントとしての応用の可能性が考えられた。
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