研究課題/領域番号 |
16J08291
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
両角 明彦 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / 超解像イメージング / キサンテン系色素 / グルタチオン / 求核付加・解離 |
研究実績の概要 |
SMLMは蛍光色素を確率的に明滅させることで超解像蛍光画像を構築する技術である。本研究では、細胞内グルタチオンの求核付加・解離平衡という新規明滅原理に基づく多色・多機能なSMLM用色素の開発に取り組む。これまでに2種の候補色素骨格CP550およびSiP650を見出しており、昨年度にはCP550の生細胞応用を達成した。本年度は、SiP650の生細胞応用を含む下記3項目に主に取り組んだ。 1.タンパク質タグを利用したSiP650の生細胞応用:標識手段としてタンパク質タグ、特にHaloTagを用いた系において、SiP650の生細胞応用を達成した。CP550に続いての本色素の生細胞応用により、本研究独自の明滅原理および分子設計指針の汎用性と拡張性が実証された。また、SiP650は、所属研究室が以前に開発したHMSiRと同等の波長域でありながら、明滅特性にバリエーションを加えることで、この波長域のSMLM用色素の適用範囲を拡大させたという意義がある。 2.キサンテン系色素のオルガネラ局在性に関する検討:キサンテン系色素のoff-target染色の傾向や原因を探るべく、また特定のオルガネラへの局在化戦略を検討するべく、種々のキサンテン系色素を生細胞に適用し、その局在性等を調査した。色素の求電子能および正味電荷と局在性との間の大まかな傾向を掴んだ一方で、SiP650等の局在制御の難しさをも認識した。本検討は、今後のキサンテン系色素の設計・開発や応用の際に参照されるべき知見を与えた。 3.photoactivatable型色素に関する検討:可視光刺激によりグルタチオンの解離を促進(activation)できる色素分子の開発を試みている。キサンテン環を拡大した候補色素骨格に関し、誘導体を合成して光応答性および光耐久性を評価した結果、この種の色素骨格の開発展開を試みる方針の妥当性が支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、細胞内グルタチオンの求核付加・解離平衡という新規明滅原理を提案し、これに基づく多色・多機能なSMLM用色素の開発を進めている。分子設計・合成と明滅特性の評価の結果、2種の候補色素骨格CP550およびSiP650を見出した後に、まず昨年度内に早くもCP550の生細胞応用を達成した。これは、所属研究室が先行研究において開発した赤色蛍光色素HMSiRに続く2色目のSMLM用蛍光色素となった。2色目の色素は、多色観察により生物学的事象を解析するために必須であり、その開発が強く求められながらも、HMSiRの設計戦略を踏襲するだけでは実現されなかった。本研究において、新たな設計原理に基づきこれを開発したことは、化学的にも実使用上の観点からも非常に重要であり、高く評価されうる。さらに、本年度はSiP650の生細胞応用も達成した。昨年度までの基礎検討からは、標的特異的な標識と超解像画像構築に難しさを感じていたが、本年度は条件検討と試行錯誤を経て、これを達成するに至った。CP550, SiP650の両色素で生細胞応用を達成したことで、本研究独自の明滅原理および分子設計指針の汎用性と拡張性が示された。SiP650は、赤色蛍光領域に明滅特性のバリエーションを提供し、この波長域のSMLM用色素の適用範囲を拡張するという実用上の意義も持つ。 さらに、特に本年度において、多機能化展開に向けた検討等も進展させた。1つには、キサンテン系色素の局在性の検討を行い、色素の局在性に関する大まかな傾向を掴むとともに、その制御の難しさや論点を見出した。これらは、今後色素を取り扱う際に参照されるべき知見となった。2つ目に、photoactivatable化に向けた検討も進めた。昨年度の初期検討で懸念されていた分子設計上の問題点を回避しうることが示唆され、次年度での本格的な開発展開に向けた基盤が整った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、(1)photoactivatable型色素分子ツールの開発と実証実験に注力しつつ、(2)これまでに開発したSMLM用色素の生物学的応用も進める。 1.これまでの検討結果に基づき、キサンテン環のπ電子共役系を、1,2-dihydroquinoline様の部分構造を有するように拡大した色素骨格を母核とする。細胞内の標的の特異的標識を可能にするべく、タンパク質タグの基質構造を導入した誘導体等を合成する。この色素誘導体について、レーザーフォトリシス実験を行い、光応答性および光耐久性、さらにパルス刺激後の緩和時間とそのグルタチオン濃度依存性について評価する。複数の誘導体間でのこれらの特性の比較および分子構造との相関の考察も試みる。また、標識手段と標識対象によっては、精製タンパク質を色素誘導体で標識したサンプルを用意し、これに対しても同様の実験を行う。その後、蛍光顕微鏡下での評価実験に移る。誘導体化合物を生細胞に適用し、細胞内導入と特異的標識を確認した後に、「光刺激を加えながらの超解像イメージング」および「光刺激後の緩和時間からグルタチオン濃度を定量する測定法」の検討を行う。なお、生細胞での検討に先立ち、色素をガラス面に物理吸着させた系において、光応答性およびグルタチオン濃度依存性を評価する。また、必要に応じて、固定細胞系における予備検討を行う。 2.CP550と所属研究室が先行研究において開発したHMSiRとを用いた生細胞2色SMLMに取り組む。観察対象としては、哺乳類細胞の微小管・ミトコンドリア、あるいはバクテリア細胞の分裂関連タンパク質・細胞膜等を検討する。上記の2色SMLM以外にも、共同研究等により、CP550およびSiP650をその他の様々な観察実験系に応用し、その適用範囲の拡張を図る。状況に応じて、標識手法の多様化に向けた検討も行う。
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