研究課題/領域番号 |
16J08316
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
瀧瀬 賢人 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | 水蒸気改質 / 芳香族炭化水素 / 電場印加反応 / 水素製造 / 環式炭化水素 / 表面イオニクス |
研究実績の概要 |
定電流を触媒層に印加することで473 Kという低温条件でトルエン改質反応を進行させた。種々の触媒の中で電場が形成されやすく(放電現象が生じない)、かつ触媒活性が高い5 wt% Ni/La0.7Sr0.3AlO2.85(以下LSAO)上で電場印加効果を検討した。電場を印加した場合(ER)と電場を印加せず外熱供給のみで反応に必要なエネルギーを供給した場合(SR)の反応温度変化試験を実施した。673 Kよりも低温度域においては特に電場印加効果が大きい。従来熱のみでは反応が進行しない温度域でも電場を印加することで触媒が活性を示すことがわかった。電場を印加した場合と印加しない場合の両条件でアレニウスプロットを作成した。電場を印加しない場合には見かけ活性化エネルギーが71.5 kJ/molという値を示したのに対して、電場を印加した場合には見かけ活性化エネルギーが21.0 kJ/molまで減少した。そのため、電場の印加によってある特定の反応過程が促進されたと考えられる。そのため電場有無の両条件下で分圧依存性を検討した。熱のみの反応では低温反応場において水の分圧依存度が大きく、水の解離活性化が律速段階になっていると考えられる。一方で電場改質反応では水分圧への依存度が減少し、トルエン分圧への依存度が増加した。このことから、印加電場によって従来低温では難しかった水の解離活性化が促進されていることがわかった。 またこの電場反応場をメチルシクロヘキサン(以下MCH)の脱水素反応にも適用した。電場印加によりMCHの脱水素反応が423 Kと従来型のよりも低温条件であっても20%を超える活性を示すことを見出した。本反応系においても電場印加により活性化エネルギーが減少した。従来の高い外熱を供給する反応では反応中に触媒表面に炭素が析出することが問題であった。反応後の触媒上に析出炭素は確認されなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電場印加によりトルエンの水蒸気改質反応が低温で進行することを見出し、最適な触媒を探索することができた。表面における反応機構の解明に必要な見かけ活性化エネルギーの算出また分圧依存性の検討などの速度論解析は順調に進めることができた。今後の1年間で分光分析などを活用しながら表面反応をより詳細に解析する。また本電場効果を同じく環式炭化水素を用いる水素製造反応に応用して興味深い結果を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
以下の2つの触媒反応の研究をを進める。ひとつはトルエンの水蒸気改質反応であり、もうひとつ はメチルシクロヘキサンの脱水素反応である。両反応共に触媒表面での環状炭化水素の挙動が重要とな るため、それぞれの研究から得られた知見を基に研究の進展を望むことができると考えている。 はじめに、トルエンの水蒸気改質反応に関して、昨年度までの研究からNi/LSAO触媒上においては低温反応場であっても電場 を触媒層に印加することによって水の解離活性化を促進することができることを見出した。従来は低温度域では水の解離活性化 が律速となり十分な活性を得ることができなかったが、電場の印加によって低温でも高い反応速度を得ることができた。本年度 は水の解離活性化の機構を解明するために、触媒表面における格子酸素の挙動を観測する。そのための手法として同位体酸素を 含む水を反応物とした同位体過渡応答試験を実施する。また触媒表面酸素種がトルエンの酸化にどのように寄与しているかを検 討するために電場を印加した状態での赤外分光測定を実施する。低温領域における水の解離活性化機構と活性化された酸素種が 炭化水素の改質にどのように寄与するのかを検討することで本反応における電場印加効果を解明して論文を投稿する。 次に、メチルシクロヘキサンの脱水素反応に関して、昨年度までの報告で定電流をPt触媒に印加することでメチルシクロヘキ サンの脱水素反応が従来の反応温度よりも低温で進行することを見出した。本反応においては電場を印加することで反応速度に 対する水素分圧依存性が大きく変化することから触媒表層におけるプロトン種の働きが大きな役割を果たしていると考えられる 。このプロトン種の役割を詳細に検討するため、電場印加条件におけるIn-situ IR測定を実施する。また重水素D2を用いた反応 速度評価も実施する予定である。
|