研究課題/領域番号 |
16J08326
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西 宏起 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | 脂肪肝 / アミノ酸シグナル / トリグリセリド / 機械学習 |
研究実績の概要 |
(1)アミノ酸欠乏に応答したTG蓄積機構におけるIRS-2の寄与について→IRS-2を過剰発現または発現抑制したHuH7細胞をアミノ酸欠乏培地または対照培地で培養して細胞内のTG量を測定したが、いずれにおいても細胞内のTG量は変わらず、アミノ酸欠乏に応答したTG蓄積の誘導に顕著な差は観察されなかった。また、HuH7細胞以外の肝細胞モデルとしてH4IIE-C3ラット肝癌細胞とラット初代培養肝細胞を用いて、アミノ酸欠乏培地で培養したときのIRS-2量とTG蓄積量を測定したところ、初代培養肝細胞はアミノ酸欠乏に応答してIRS-2量、TG量共に増加したが、H4IIE細胞ではTG量は増加したがIRS-2量は変化しなかった。 (2)低アミノ酸培地で培養した肝細胞の脂質代謝系の解析→HuH7細胞を14CラベルしたD-glucoseを添加したアミノ酸欠乏培地または対照培地で培養し、細胞内の放射性同位体標識された脂質を定量したところ、アミノ酸欠乏培地で培養した方が対照培地にくらべて標識脂質の産生速度が速かった。また、H4IIE細胞を用いた場合でも同様の結果が得られている。また、14Cラベルしたパルミチン酸を添加したアミノ酸欠乏培地または対照培地で培養して、細胞内のパルミチン酸取り込み量を測定したところ、脂肪酸取り込みはアミノ酸欠乏に応答して促進されなかった。 (3)血中アミノ酸濃度からの肝臓TG量の推定→種々のアミノ酸組成の食餌を給餌したラットの血中アミノ酸濃度と肝臓TG量の多次元データを機械学習プログラムの一種である自己組織化マップ(SOM)を用いて2次元空間に写像し、このマップを利用して未知のラットの血中アミノ酸濃度のデータからその個体の肝臓TG量を算出したところ、実測値に近い値が出力されたことから、血中アミノ酸プロファイルから肝臓TG蓄積量を推定できることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時には、低タンパク食を給餌したラットの肝臓においてIRS-2のタンパク量が増加するなどの結果から、低タンパク質栄養状態に応答した肝臓の脂質蓄積機構にはIRS-2が重要な役割を果たしていると考えて研究計画を立てたが、研究の進展に伴いIRS-2の直接的な寄与を否定するに至った。しかし、研究計画の段階でその可能性についても検討していたことから、すぐに他の因子についての検討も進め、mTORという新しい候補因子に着目して解析を進めている。また、年次計画では同位体標識基質を用いた糖・脂質代謝解析も行うとしていたが、そちらについても「研究実績の概要」の項で述べたように、アッセイ系の立ち上げを含めて培養細胞系での解析が着実に進展している。機械学習プログラムを応用したアミノ酸と肝臓TG量の数学的解析については、申請時にはまだ十分な解析精度を確保するにはサンプル数(データ数)が不足していたが、実験とデータ集めを着実に進め、サンプル数は格段に増加している。これらのデータをもとに、現在予測プログラムやシミュレーションプログラムのアルゴリズムの改良やプログラムの見直し等を含めて解析を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
先に述べたように、当初肝臓のIRS-2がアミノ酸欠乏に応答した脂肪肝形成に重要であると考えていたことから、IRS-2ノックアウトラットの作出なども含めて年次計画を立てていたが、mTORシグナル系およびその制御下にある代謝系の解析を優先して進める。具体的には、培養細胞系で同位体標識基質を用いた糖・脂質代謝系の解析系を立ち上げ、それをラットを用いたin vivo系にも応用することで、培養細胞系・動物実験系の双方で代謝系を解析できるようにする。その後、mTORの阻害剤等の添加やmTORシグナル系の構成因子のジェネティックな修飾(発現抑制、過剰発現、変異導入など)の操作を行った時の肝細胞・肝臓のTG蓄積および糖・脂質代謝系の活性の変化を解析していく。
|