研究課題
近年生活習慣病が社会問題化し、その発症機序や予防、治療に関する研究が世界中で盛んに行われている。明確なアルコールの多飲歴が無く発症する非アルコール性脂肪肝およびそれに端を発する非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、生活習慣病に伴うさまざまな合併症と関連しているが、その発症原因は複雑で、詳細な機構については未だに大部分が未解明である。申請者の所属する研究グループでは、同様に未だほとんどわかっていないアミノ酸シグナルと物質代謝の関係について研究を進めてきており、当該研究課題では食餌中のアミノ酸欠乏による脂肪肝の発症機構の解明を行ってきた。申請時には、その機構にはインスリン様シグナルおよびそれを仲介するタンパク質であるIRS2が重要だと考えていたが、初年度の研究成果からアミノ酸欠乏による肝臓への脂質蓄積機構にはそれらの寄与は少ないと結論した。そこで当該年度においては、アミノ酸欠乏食を給餌した動物の肝臓の脂質代謝変化を解析するために、脂質のフラックスを測定する実験系の立ち上げを行った。前年度に培養細胞系で脂質のフラックスを解析し、アミノ酸欠乏に応答した肝細胞への脂質蓄積には脂質の新規合成の活性化が重要である可能性が考えられたことから、その解析方法をin vivoに応用することを考えて検討を行った。その結果、新たにGCMSや蛍光標識脂肪酸などを用いた脂肪酸解析手法を導入することにより、ラット生体の肝臓における脂質の合成、取り込み、分泌、分解のそれぞれの活性を測定する実験系の立ち上げに成功した。これにより、アミノ酸欠乏食を給餌したラットの肝臓の脂質のフラックスを解析することが可能になると考えている。またこれまでの成果は論文にまとめてScientific Reportsに投稿し、受理された。
2: おおむね順調に進展している
当初予想していたインスリン様シグナルやIRS2の関与はほぼ否定されたものの、それに代わるアミノ酸シグナルによる脂質代謝制御因子の探索はおおむね順調に進展している。またそれと同時に、今後必須になると考えられる脂質のフラックスの解析を培養細胞系とin vivo系の両方で行えるような実験系の立ち上げに成功したことは今後の当該研究の進展において非常に意義が大きいと考えている。
これまでの研究結果から、アミノ酸シグナルに応答した肝臓の脂質蓄積の誘導はインスリン様シグナルおよびIRS2を介していないと結論した。そしてそれに代わるアミノ酸シグナル伝達経路を、培養肝細胞(H4IIE細胞)およびラットを用いて探索してきた中でいくつかの候補分子に見当をつけている。一方で、培養細胞およびラット個体で肝臓の脂質のフラックスを測定する実験系の立ち上げにも成功している。したがって、今後はまずその系を用いて、アミノ酸欠乏培地で培養したH4IIE細胞やアミノ酸欠乏食を給餌したラットの肝臓の脂質のフラックスが対照と比較してどのように変化しているのかを解析する。その後、そこで変化の見られた代謝反応が、現在見当をつけている候補分子の阻害剤処理条件下や過剰発現・発現抑制条件下などにおいてどのような影響を受けるのかを解析することで、アミノ酸シグナルによる脂質代謝変化を仲介しているシグナル経路を絞り込む。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 8 ページ: 5461
DOI:10.1038/s41598-018-23640-8
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2018/20180410-1.html