30年度の目標は第一に、28年度に完了した「驚愕反射を利用した耳鳴の行動指標測定装置」によって定量化した耳鳴の行動指標の妥当性を、27年度に完了したオペラント学習行動実験系を用いて検証することであった。第二に、耳鳴患者のfMRI計測を引き続き実施することであった。これらの目標に照らし合わせて、本年の主な研究実施状況を報告する。 進捗1 驚愕反射と音知覚の関係性の検証:「驚愕反射を利用した耳鳴の行動指標測定装置」 を用いて定量化した耳鳴の行動指標の妥当性を、オペラント学習による行動実験系を用いて検証した。その結果、動物の反射行動から推定される耳鳴の指標は、動物の知覚を反映することが示唆された。この結果は,反射から推定される耳鳴の行動指標は、動物の知覚を反映することを示す。この知見は、本研究課題で作成した耳鳴の動物モデルの妥当性を補強する。 進捗2 神経デコーダを用いた聴覚野における音の情報表現の検討:音刺激定時中の聴覚野神経活動から、刺激した音の周波数を機械学習的な手法で推定するデコーダを設計し、音響暴露と統制群とでその性能を比較した。その結果、過渡的な音刺激に対する過渡的な神経応答のデコーダ性能は音響暴露群で低下した。一方で、持続的な音刺激に対する定常的な神経応答のデコーダ性能は、群間に違いを認めなかった。この結果は、聴覚野における神経活動の同期活動に、持続的な音刺激の情報が安定して表現される可能性を示唆する。この知見は、持続的な音の知覚である耳鳴が、神経活動の同期現象に関連するとした知見(29年度実施内容)を補強する。本研究内容は、Neuroscience誌に採択されることが決定した。 進捗3 fMRIを用いたヒトの神経活動計測:補聴器装用前後における耳鳴患者のfMRI計測を5名完了した。本研究は、耳鳴症状を反映するヒト脳の神経活動の解明につながることが期待される。
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