3Dインクジェットプリンターにより細胞とゲルからなる生体組織様構造を作製するインクジェットバイオプリンティングが近年注目され、この用途に適したゲル材料の開発が求められている。本研究では、金属イオンの添加により瞬時にゾル-ゲル転移するイオン架橋性ゲルに着目し、自在に分子設計可能な合成高分子のみからなる新規イオン架橋性ゲルの開発を通じてバイオプリンティングに適した革新的なゲル材料の開発を目指した。 本年度は、より高性能な合成高分子イオン架橋性ゲルを実現するための前駆体高分子の分子設計の指針となる知見を獲得すべく、ABA型トリブロックコポリマーからなる新規イオン架橋性ゲルの開発に取り組んだ。その結果、金属イオンの添加により直接ゲル化可能な新規イオン架橋性ゲルが直鎖高分子でも実現できることが示され、イオン架橋性ゲルの材料設計の幅を広げることに成功した。 また、合成高分子イオン架橋性ゲルの3Dインクジェットプリンティングについて化学工学的検討も行った。昨年度は、スターブロックコポリマーを前駆体高分子とする合成高分子イオン架橋性ゲルを用い、インクジェットプリンターにより3次元ゲル構造物を作製した。これを反応拡散プロセスとしてモデル化することにより、印刷解像度向上のための材料設計の指針となる知見の獲得を試みた。その結果、ゲル化に要する金属イオン量が少ない方が高解像度を実現できると示唆され、本モデルにより実験結果を矛盾なく説明できた。 本研究の成果により、イオン架橋性ゲルの自在な分子設計への道が拓かれると同時に、インクジェットバイオプリンティングに適した高性能なゲル材料を設計するための指針となる知見の一端が明らかとなったと考えられる。今後さらに、上述のような材料設計とプロセス検討の一体的検討を加速していくことで、バイオプリンティング分野にブレークスルーがもたらされることが期待される。
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