研究課題
北極域における近年の氷河暗色化現象を理解するため,グリーンランド西部沿岸域の氷河上クリオコナイト(鉱物粒子と氷河上微生物由来の有機物)のSr-Nd同位体比を分析し,氷河上に飛来する鉱物の起源が主にそれぞれの氷河周辺の堆積物由来であること,その起源は地域によって異なり,各氷河周辺の地質条件を反映していること,さらに氷河表面の暗色域の形成には氷体内ダスト(過去に氷河上流域表面に堆積したものが,氷の流動とともに氷体内部を通って下流域へと運ばれた)の供給が重要な役割を果たしていることを明らかにした.また,この成果を論文としてまとめ,Frontier Earth Science誌に発表した.次に,氷河暗色化のもう一つの要因として考えられる黒色炭素の特性を理解するため,グリーンランドおよびアラスカの積雪に含まれる黒色炭素の走査型電子顕微鏡観察を行った.その結果,グリーンランドの積雪にはアラスカに比べて,鎖状体構造を持つ粒子が多く含まれており,北極域各地の積雪に含まれるブラックカーボンの起源あるいは輸送経路が地域によって異なることが明らかになった.さらに,このような暗色物質の起源が年とともに変化しているのかどうかを明らかにするため,グリーンランド氷床北西部において掘削されたアイスコア中の鉱物粒子の形態観察および化学組成分析にも着手した.鉱物粒子の粒径分布および主要元素組成は,異なる時代の氷の層によってその値が大きく変動していたことから,氷床上に飛来した鉱物の起源,あるいは輸送プロセスが,時代とともに変動している可能性があることがわかった.以上,本研究の成果によって,まだその詳細がほとんど明らかになっていない氷河暗色化拡大のメカニズムや,近年のクリオコナイト量の増加要因に関する理解が進むと考えられる.
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,初年度に予定していたグリーンランド氷床上の暗色物質の分析を行い,その起源および暗色化への影響について論文としてまとめることができた.また,このような暗色物質の起源や種類が時間とともに変化しているのかを明らかにするため,氷床上で掘削されたアイスコアの分析にも着手することができており,本研究はおおむね順調に進展している.
引き続きグリーンランド氷床アイスコア中の暗色物質の分析を進める.このアイスコアの長さは222.72 mで,これまでに分析が完了しているのは,そのうちの深さ0 - 110m部分(約340年分に相当)の異なる時代の5つの氷の層に含まれるサンプルである.今年度は数年~10年スケールでのより詳細な間隔でサンプルを分析し,氷床上に飛来した暗色物質の起源および種類の時間変化を明らかにする.さらに,北極域の氷床・氷河における暗色域拡大の地域による違いを明らかにするため,アラスカのグルカナ氷河上で採取された暗色物質の分析を行い,その経年変動をグリーンランドと比較する.この氷河では2000年から2015年にかけて4度の調査が行われており,申請者も参加して試料を採取している.2000年と2010年の試料に関してはすでにSr-Nd同位体比測定を行っており,その結果から,クリオコナイト中の鉱物の起源が氷河の標高によって異なること,さらにそれは氷河上や周囲の環境変化の影響を受けていることを明らかにしてきた.近年の地球温暖化の影響を顕著に受けるアラスカの氷河では,その物質循環や経年変動にも何かしらの変化が生じている可能性があることから,今年度はさらに2015年の試料を分析することで,過去15年間の暗色物質の起源の変化を明らかにする.さらに,余力があれば現地に行ってサンプルを採取する.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
Frontier Earth Science
巻: 4 (93) ページ: 1-11
10.3389/feart.2016.00093
FEMS microbiology ecology
巻: 92 (9) ページ: 1-10
10.1093/femsec/fiw127.