研究実績の概要 |
紙面に書かれた単語を読み上げたり(音読),思い浮かんだ単語を言ったり(発話)するためには,頭の中で単語の音をあらかじめ用意しておく必要がある。このとき,単語の音は,音韻単位と呼ばれる特定の大きさの処理ユニットを用いて組み立てられる(e.g., Levelt, Roelofs, & Meyer, 1999)。 従来,日本語の音韻単位はモーラだと考えられてきたが,先行研究は主に仮名語を用いており(e.g., Verdonschot et al., 2011),漢字熟語のみを用いた研究は行われていなかった。しかし,仮名と漢字は「文字と音の対応関係」が異なる。仮名は一文字が特定の1モーラに対応するが,漢字は一文字が1モーラ以上に対応することもある上,複数の読みを持つ。したがって,両者の音韻単位も異なる可能性があった。そこで本研究では,漢字熟語の音韻単位について検討することで,音読・発話における音韻単位を再検証する。平成28年度は,以下の研究1,2を行った。 研究1では,音韻単位に関する代表的な実験手法であるマスク下プライミングを用いて,音読課題による検討を行った。実験の結果,仮名と漢字の音韻単位は「文字と音の対応関係」に依存して異なることが示された。すなわち,仮名の音韻単位はモーラ(e.g., /ha/ = は)であるのに対し,漢字は「個々の文字の読み(e.g., /ha.ku/ = 博)」であった。 研究2では,研究1の結果が音読課題以外にも当てはまるのかという問題について検討するため,もうひとつの代表的な手法である潜在的プライミングを用いて,音読と発話を比較した。その結果,音読は「文字と音の対応関係」に依存するのに対し,発話はあまり依存しないことが示唆された。したがって,研究1の一般化可能性については,さらなる研究が必要であることが示された。
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