研究課題/領域番号 |
16J08512
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
志村 崇 東京農工大学, 大学院工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 空間光変調器 / 位相差変調 / 構造性複屈折 / ナノグレーティング / メタサーフェス / MEMS |
研究実績の概要 |
本研究は、裸眼電子ホログラフィの実現に貢献する可能性を持つ、可視光の高速光位相差変調が可能なマイクロスケールの光位相差変調器の開発を目的とし、可視光に対して複屈折性を示すAuナノグレーティングを駆動させることで、位相差変調を実現することを試みる。 今年度は、昨年度に確立したマイクロ微細加工工程を使用して、変調素子の試作を行った。パターン設計を変更することにより、光位相差を維持しながら透過率を変調することができる素子形状を発案し、試作および評価を行った。素子への印加電圧に対する透過率スペクトルの変調測定を行い、電圧によってスペクトルが変化することを示した。透過率変調は、本研究の目的である光位相差変調とは異なる新たな特性である。これらの成果は、電気学会論文誌に投稿し、11月に公開された。 本研究で提案する素子の位相差特性を理論的に検証するため、多層膜構造の干渉理論を適用した理論解析手法の確立を試みた。微細構造を含む層を等価の均一媒質に近似する手法として有効媒質理論を採用し、数値処理ソフト上で計算プログラムを構築した。計算結果を、市販の数値解析ソフトの計算結果と比較したところ、入射光の偏光方向によって、構築した理論計算プログラムの結果と数値解析結果がよく一致する場合としない場合とがあることが明らかになった。この結果より、有効媒質理論をそのまま適用するだけでは条件が不十分であることが示唆された。しかしながら、時間のかかる数値解析に対して本計算プログラムでは、光の伝搬特性は評価することができないものの、瞬時に透過特性の結果を出力できることから、設計時の概算手法として有用であることが分かった。適用条件を改善し、今後の素子設計で利用することを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度に確立した歩留まりの高い製作工程を利用して、試作過程で得られた透過率変調特性の知見をまとめた論文が公開された。透過率変調は、本研究の目的である光位相差変調とは異なり、当初想定していなかった新たな特性である。また、試作素子で変調特性を実証できた点で大きな進展である。 また、並行して進めてきた、静電駆動型のグレーティングの製作工程がほぼ確立され、可視光領域での位相差変調を実証することができた。これについては現在知見をまとめているところであり、当初の目標である高速変調の実現に近づいたと言える。 加えて、本研究で提案する素子の位相差特性を調査するため、多層膜構造の干渉理論を適用した理論解析手法の確立を試み、数値処理ソフト上で計算プログラムを構築した。市販の数値解析ソフトと結果が合わず、改善の余地があるが、時間のかかる数値解析に対して瞬時に透過特性の結果を出力できることがわかった。今後の光学特性の概算手法として確立できれば、昨年度までに構築した解析システムと併用することで、より高精度・高効率の素子設計が実現できると考えている。 位相差変調素子の個別制御を行うためのドライバ回路の設計については、素子製作を重視したため進展がなかった。しかしながら、熱駆動及び静電駆動型素子の駆動を行う実験設備は既に構築できており、光学特性の評価までは実証できているため、本素子をディスクリートの回路に組み込めるような変換システムを実装すれば、個別制御の実現が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、可視光の高速位相差変調が可能なマイクロスケールの変調器を開発することを目的としている。現状の静電駆動型グレーティングの知見をまとめるにあたり、高速変調と大きな変調量の両立には、当初の計画以上の時間を要することが推察された。そのため、今年度は、静電駆動型素子の応答特性をより詳しく調査して高速変調を実証することに加え、当初の計画には含まなかった、熱駆動型素子による位相差変調量の向上及び位相差変調素子の実用性の実証を並行して行う。 並行して、位相差変調素子の個別制御を行うためのドライバ回路の設計及び実装を行う。熱駆動及び静電駆動型素子をディスクリートの回路に組み込めるような変換システムを実装することで、現有の評価システム上での個別制御を実現する。実用化した際の状況により近い状態で変調試験を行うことで、実用化を視野に入れた時の課題や改善点を明らかにする。
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