まず、我々が培養法を確立させた新規犬間葉系幹細胞(MSCs)であるbone marrow peri-adipocyte cells (BM-PACs)からスフェロイドを作製し、バイオ3Dプリンタを用いて、3D組織構造体を作製した。構造体は通常酸素および低酸素環境下で7日間軟骨分化誘導を行った。一部のスフェロイドは構造体作製に用いず、単体で分化誘導を行った。構造体およびスフェロイド単体のいずれも、低酸素環境下で硝子軟骨様の分化を示したが、スフェロイド単体と比較すると、SOX9等の軟骨関連遺伝子の発現は構造体で有意に亢進した。また、通常酸素環境下では構造体のプロテオグリカンやⅡ型コラーゲン発現が低下した。以上から、3D軟骨組織構築においても低酸素環境は重要であり、バイオ3Dプリンタと低酸素培養を組み合わせることで、犬MSCsから硝子軟骨組織を体外構築することが可能であった。 次に、作製した構造体の犬軟骨欠損モデルにおける軟骨再生治療効果を検討した。健常ビーグル犬2頭からBM-PACsを培養し、移植予定部の3D形状を再現した直径6 mmの硝子軟骨構造体を低酸素下で作製した。その後、両後肢の大腿骨内側顆荷重部に直径6 mmの軟骨欠損を作製し、片側は構造体を移植する移植肢、対側は移植を行わない対照肢とした。3か月後に膝関節を採取し、移植部の組織学的評価を行った。Dog 1では移植肢、対照肢ともに欠損部が軟骨様組織で置換されていた。組織学的評価では、移植肢の欠損部は大部分が硝子軟骨様組織で置換されていたのに対し、対照肢では線維軟骨様組織が混在している様子が確認された。一方でDog 2では移植肢、対照肢ともに欠損部に再生軟骨組織はほとんど認められなかった。以上から、バイオ3Dプリンタにより作製した硝子軟骨構造体の移植により、欠損部の線維軟骨による再生を抑制出来る可能性が示唆されたが、今後、移植方法や移植後の管理等をさらに検討する必要があると考えられた。
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