研究課題/領域番号 |
16J08637
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 健太郎 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | フェロモン / 神経科学 / 性行動 |
研究実績の概要 |
本研究は、マウスの性フェロモンが作用する基盤となるの性的二型な神経回路の機能と形成メカニズムを明らかにすることを目的としている。当該年度においては、性フェロモンが伝達される神経回路を同定することを目指し、ウイルス工学やマウス遺伝学を用いた行動実験を計画していた。具体的には、マウスのメスの性行動を促進させるフェロモンESP1の効果に関わることが推測されていた視床下部と扁桃体の脳領域の機能解析を試みた。結果として2つの脳領域について、その必要性と十分性を示すことができ、当該年度に予定していた研究計画を上回る成果を得た。また、その内容をもとに二度の国際学会におけるポスター発表を行った(”Gordon Research Conferences :Optogenetic Approaches to Understanding Neural Circuits & Behavior”と”17th International Symposium on Olfaction and Taste”)。さらに成果をまとめた原著論文を国際誌Neuronに投稿している。論文は、現在リバイス中であり本年度中の受諾が期待される。 この成果は、性フェロモンの研究に初めて最先端の遺伝学的なツールを導入し、その効果に関わる神経基盤を明らかにしたという点で重要である。これまでの性フェロモン研究の多くは、フェロモン物質の同定に重点を置いていた一方で、本研究は「なぜフェロモンが効くのか?」という問いに新しい知見を与えたと考えている。さらに、本研究は「なぜ行動の雌雄差が生じるのか?」という問いにも新たな示唆を与えている。感覚入力を伝達する神経回路の上流領域で、雌雄で異なる下流領域へ情報を“分配”する機構を発見することができた。これは、性機能障害の理解にもつながりうる知見であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、申請書に示した2つの計画のうち、既に1つを終えている。具体的には、「ESP1による性行動の制御メカニズムの解明」である。さらに、その内容を発展させ得られた結果をまとめた原著論文を国際誌Neuronに投稿している。論文は、現在リバイス中であり本年度中の受諾が期待される。このような理由で、本研究の現在までの進捗状況は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、申請書に示した2つの計画のうち、未完了の一つを推進していきたいと考えている。具体的には、「フェロモンを介する性的二形な神経回路の形成を制御する遺伝子の同定」である。これまでに明らかにしていた、内側扁桃体の性的二型な神経回路を構成するニューロンから単一細胞レベルでのトランスクリプトーム解析を行い、この回路の成分化の鍵となるような遺伝子の同定を目指す。 また、本研究では当初、メスの性行動を促進させる神経回路に着目していた。しかし、研究を推進していく過程で、反対に性行動を抑制させる神経回路を新たに発見している。今後は、この性行動を抑制する神経回路の機能解析を更に推進していく。今後の研究結果とこれまでの成果とを合わせることで、メス個体がどのように性行動をコントロールしていくかの包括的な理解が進むことが期待される。
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