研究課題/領域番号 |
16J08666
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
由淵 想 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 液相合成 / 全固体電池 / 固体電解質 / 硫化物 / リチウム電池 / ナトリウム電池 |
研究実績の概要 |
本研究は、応用に適した作製プロセスの確立を目指し、液相法を用いた高イオン伝導性硫化物系固体電解質の作製と、その際に得られる固体電解質の前駆溶液を用いることでバルク型全固体電池の高性能化を目的している。 本年度は、高いリチウムイオン伝導性を有するアルジロダイト型結晶Li6PS5X (X=Cl, Br)の出発原料からの液相合成と全固体電池への応用を行った。エタノールとテトラヒドロフランの2種の溶媒を用い、ワンポットの反応場で合成を行った後に、真空条件下150oCで乾燥させることで、短時間でほぼ単相のアルジロダイト型結晶Li6PS5Brが作製できることを見出した。得られた電解質は室温で1.9×10-4 S cm-1と比較的高いリチウムイオン伝導度を示した。さらに550oCの高温で熱処理を行うことで、1.1×10-3 S cm-1と非常に高い導電率を示すアルジロダイト型結晶の作製が可能であった。また、得られた電解質を薄膜化し、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子上に電解質をコートすることで、バルク型全固体電池は電極複合体中の活物質割合が90 wt.%と非常に高い場合においても120 mAh g-1の高い電池容量を示した。 また、液相法を用いたナトリウムイオン伝導性硫化物系固体電解質の作製にも取り組んだ。溶媒として1,2-ジメトキシエタンやジエチルエーテルを用いることで、出発原料(Na2SおよびP2S5)からのより高いイオン伝導度を示すNa3PS4電解質の液相合成を行った。真空熱乾燥で溶媒を留去することで、高イオン伝導相である立方晶Na3PS4結晶が得られた。交流インピーダンス測定を行った結果、その電解質は室温で10-5 S cm-1以上の比較的高いナトリウムイオン伝導度を示し、既存の液相法で合成した電解質よりも導電率を1桁向上させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、2種類の溶媒を組み合わせることで、兼ねてからの課題であった出発原料からのアルジロダイト型結晶Li6PS5Brの液相合成に成功し、従来の固相法で作製された電解質と同等以上の非常に高い導電率を発現させることに成功した。また、得られた電解質の前駆溶液を用いることで、実用化に適したプロセスでバルク型全固体電池を作製することができ、従来よりも高いエネルギー密度が達成された。この結果から、液相法を用いて広い接触面積を有する電極活物質-固体電解質の界面を構築することで、全固体電池の高性能化が図れることを確認した。さらには、エーテル類やエステル類を用いることで、ナトリウムイオン伝導性を有する硫化物系固体電解質Na3PS4結晶の液相合成に成功し、既存の手法よりも導電率を1桁向上させることも可能であった。よって、本研究は順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
計画に合わせておおむね研究が進んでいる。本年度に引き続き、より高い導電率を示す硫化物系固体電解質の液相合成に取り組む。特に硫化物系固体電解質の液相合成する過程で得られる前駆体の結晶構造解析を行い、液相法を用いた電解質の反応プロセスについて解明し、様々な種類の硫化物系固体電解質の液相合成に応用する。また、実用化を見据えては大気安定などの様々な機能を付加した電解質も求められているため、電解質の導電率と安定性を両立した電解質の開発を目指す。加えて、バルク型全固体電池におけるバインダーや導電助剤の影響を検討し、電池のさらなる高性能化を目指す。また、液相法を用いる利点を活かし、多孔質電極などの構造を工夫した電極に対し電解質の前駆溶液を含侵させるといった応用的かつ実用的な方法で全固体電池を作製する。ナトリウムイオン伝導性硫化物系固体電解質の液相合成についても検討し、さらなる導電率の向上を目指す。
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