本研究は、応用に適した作製プロセスの確立を目指し、液相法を用いた高イオン伝導性硫化物固体電解質の作製と、その際に得られる固体電解質の前駆溶液を用いることでバルク型全固体電池の高性能化を目的している。 本年度は、XRD測定およびTEM観察を用いて、液相合成されたアルジロダイト電解質の結晶性(体積割合と結晶子サイズ)を評価した。その結果、熱処理温度と結晶性、イオン伝導度の相関を定量的に明らかにした。 また、有機電解液を用いる電池で一般的に使用される多孔質電極に前駆溶液を含浸させ、その後乾燥させることで、広い接触面積を有する電極-電解質界面形成と連続的なイオンおよび電子伝導パスをもつ電極複合体構築のための新規プロセスを開発した。含浸させたLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2電極複合体を用いた全固体電池は、高い可逆容量を示した。また、電子およびイオン伝導の確保が不可欠な負極材料であるLi4Ti5O12における電極-電解質-導電助剤の三相界面を構築するために、バインダーを用いないLi4Ti5O12-カーボンナノチューブ多孔質を作製し、電解質を含浸させた。その結果、Li4Ti5O12電極複合体を用いた全固体電池は、従来法を用いた場合よりも高いLi4Ti5O12利用率と長期サイクル特性を示した。 加えて、水を溶媒に用いたNa3SbS4ベース電解質の溶液状態を経由する液相合成に取り組んだ。導電率の増大を目指し、アンチモンの一部をタングステンで置換し、ナトリウム欠損を導入したNa3-xSb1-xWxS4電解質の液相合成を試みた。その結果、x = 0.12組成の電解質は、液相合成されたナトリウムイオン伝導性硫化物電解質の中で最も高いイオン伝導度(4.2×10-3 S cm-1)を示すことを明らかにした。
|