研究課題
本研究は、宿主となる木の樹上の水分を含む基質の上、という特殊な発芽環境を必要とする、半着生(絞め殺し)イチジクの種子散布動物の有効性を評価することを目的としている。有効性は、散布した種子の量(量的有効性)と種子散布先の環境(質的有効性)の二点に着目し、ボルネオ島に生息する、果実食性動物ビントロングと、他の果実食性動物2種を比較することで評価を行った。前年度は、主に質的有効性を中心に研究を行った。2015年度に捕獲したビントロング2個体、およびイチジク食傾向が強いボルネオテナガザルとオナガサイチョウを個体追跡し、種子散布(排泄)先の環境の特定を行った。これまでに、ビントロング、ボルネオテナガザル、オナガサイチョウの種子散布場所をそれぞれ9か所、9か所、4か所特定した。各散布場所を、着生植物、木の又、枝、下層の葉、地面の5つの微小環境に分類した。3種すべては樹上で排泄をしたが、このなかで半着生イチジクの種子の潜在的な発芽場所は、着生植物と枝の上である。こうした環境に散布した動物は、ビントロングのみであった。したがって、上記3種のなかでは、ビントロングが質的に有効性な半着生イチジクの種子散布者であることが示唆された。 ビントロングが着生植物や木の又に散布した種子の運命を追跡するために、4か所にタイムラプスカメラを設置し、現在も長期観察を行っている。また、半着生イチジクの果実を食べたビントロングの糞と、同じ結実個体のイチジク果実から同数の種子を回収し、発芽率を比較したところ、ビントロングの糞由来の種子の発芽率が高いことが示唆された。このことからも、ビントロングは、半着生イチジクの種子散布者として、質的に有効であることが示唆された。今年度は、引き続き質的有効性の評価に加えて、量的有効性の評価についても調査を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
前年度は、主に半着生イチジクの種子散布動物の質的有効性の評価を行った。サンプル数はまだ少ないものの、現地アシスタントの協力のもと、データを順調に蓄積している。
今年度は、これまで行ってきた半着生イチジクの種子散布者としての質的有効性の評価に加え、量的有効性についても調査を行う予定である。また、2017年3月に、これまで個体追跡をしてきたビントロング2頭のテレメトリー発信機の電池が切れた、という報告を現地アシスタントから受けたので、新たにビントロングの捕獲・追跡を行い、調査を進める予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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